オペラ映像「ジークフリート」「リナルド」「仮面舞踏会」
猛暑が続いている。セミリタイアの私の今の身分では、特に今の時期は無理に外に出る必要がない。自宅でごろごろしていることが多い。オペラ映像を数本みたので、簡単に感想を記す。
ワーグナー 「ジークフリート」 2022年10月 ベルリン国立歌劇場
先日から見続けている、2022年のベルリン国立歌劇場の「ニーベルングの指環」の3作目。これまでと同じように、ティーレマン指揮の演奏は最高。ディミトリ・チェルニャコフの演出は意味不明。
「ワルキューレ」に引き続き、舞台は何かの研究所という設定。その片隅にミーメの部屋があり、ジークフリートが暮らしている。そこにさまよい人(ヴォータン)が現れるが、「ワルキューレ」では、ヴォータンはこの研究所の所長らしかったが、今回は、かなり老けた様子で、おそらくすでに引退して、ヌシのように研究所内をうろつく老人といったところ。ジークフリートは子供のように行動するが、第一幕、刀を溶接する際、大事にしていたらしいおもちゃを焼き尽くして、大人の仲間入りをする。第二幕では、アルベリヒは歩行器を使って歩く老人として登場。ミーメやヴォータンとのやり取りはまさに手足の不自由な老人どうしの喧嘩。ジークフリートは研究所に実験を受けに来た若者ということだろうか。白衣を着た女性(のちに、森の小鳥の歌を歌う)に導かれて、実験室をうろつく。ファフナーは精神疾患の患者として登場。もちろん、大蛇の姿ではなく、ただふつうにジークフリートと格闘して敗北。ジークフリートは白衣を着た研究所の所員(森の小鳥)に導かれて外に出ようとするが、いつまで行っても研究所から出られない。第三幕、ブリュンヒルデは火に包まれておらず、「睡眠ラボ」で眠っている。迷い込んだジークフリートがブリュンヒルデを起こして愛を交わす。・・・うーん、なんのこっちゃ!
「ワルキューレ」に引き続き、さすらい人のミヒャエル・フォッレとブリュンヒルデのアニヤ・カンペが圧倒的。この二つの役を歌った伝説の大歌手たちと肩を並べるのではないか。カンペの細くてしなやかな美声でありながらも強靭。しかも女性的魅力も併せ持っている。ジークフリートのアンドレアス・シャーガーはひところよりも声の輝きが弱まった気がするが、十分にこの役を歌っている。ミーメのシュテファン・リューガマー、アルベリヒのヨハネス・マルタン・クレンツレはまさにこの役に最適。ファーフナーのピーター・ローズ、エルダのアンナ・キスユディット、森の小鳥のヴィクトリア・ランデムも申し分ない。そして、もちろんクリスティアーン・ティーレマンの指揮も緻密にして躍動的。目をつむって音楽だけを聴く方がずっと感動できると思う。
ヘンデル 「リナルド」(1718年ナポリ版、セキによる再構築スコア、比較校訂版) ヴァッレ・ディトリア音楽祭 2018
本来のヘンデルのオペラそのものではないらしい。バロック・オペラにあまりなじんでいない私としては、詳しいことはよくわからない。が、ともあれ、とても楽しむことができた。かなり入り組んだストーリーだが、うまく整理されているのでわかりやすい。音楽はとても雄弁。親しみやすく美しい歌がたくさんある。
演出はジョルジョ・サンガーティ。本来のキリスト教徒と異教徒の争いを、ロックスタイルの人々の争いに重ねあわされているらしい。私はまったくわからず、ただロックっぽい服をみんな着ているなあ、と思ってみただけだったが、見る人が見れば、それぞれの人物が有名なロックスターを連想させるらしい。
演奏に関しては、これ以上は考えられないほどの充実ぶり。ファビオ・ルイージの指揮するラ・シンティッラ管弦楽団という古楽器オーケストラが見事。おいおい、ルイージはこんなこともできるのか!と思ってしまう。リナルドのテレサ・イェヴォリーノ、アルミーダのカルメラ・レミージョ、ゴッフレードのフランシスコ・フェルナンデス=ルエダ、アルミレーナのロリアーナ・カステッラーノ、アルガンテのフランチェスカ・アシオーティ、エウスターツィオのダーラ・サヴィノワ、いずれも申し分のない音程の良い美声。とりわけ、イェヴォリーノとレミージョが素晴らしい。
長いオペラだったが、まったく退屈しないでみられた。
ニールセン 「仮面舞踏会」(ドイツ語版)2021年12月2,4日 フランクルフルト歌劇場
ヴェルディの「仮面舞踏会」ではない。ニールセンの珍しいオペラ。私はこの映像で初めてこのオペラを知った。デンマークでは人気のオペラだという。
実はニールセンは好きな作曲家ではない。おそらく交響曲は全曲聴いたことがあるとは思うが、どれもそれほどおもしろいとは思わなかった。そして、このオペラもまた、あまりおもしろいとは思わなかった。
青年レアンダは、親の決めた婚約者がいるのに、仮面舞踏会に参加して、そこで出会った女性と恋に陥ってしまう。そこに、レアンダの両親の不仲と仲直りがからむ。結局、新しい恋の相手こそが婚約者だったことでめでたしめでたしで終わる。ありがちな喜劇。ただ、そのわりに音楽は軽妙ではない気がする。活気はあるが、これと言って特徴のない音楽がずっと続いていく感じがして、私は残念ながら魅力を感じない。
ただ、歌手陣は全員が素晴らしい。歌がうまいだけでなく、容姿を含めてまさにその役にふさわしい。レアンダのマイケル・ポーターはしっかりした美声。召使のヘンリクを歌うリヴィウ・ホレンダーは歌のうまさもさることながら、まさに芸達者。レオノーラのモニカ・ブツコフスカはこの役にふさわしい雰囲気。父親イェロニムスのアルフレート・ライター、母親マグデローネのスーザン・ブロックともに見事。
指揮はティトゥス・エンゲル。しっかりとまとめている。演出はトビアス・クラッツァー。現代の若者劇に仕立てており、とてもおもしろい。
| 固定リンク
「音楽」カテゴリの記事
- ヴィオッティ&東響のショスタコーヴィチの第10番に圧倒された(2026.10.11)
- ヴァン・カイック弦楽四重奏団 音楽そのものの醍醐味!(2026.10.09)
- 新国立劇場「イタリアのトルコ人」 演出の工夫に感心!(2026.10.07)
- カルテット・アマービレ&今井信子のブラームスの感動!(2026.10.06)
- 濱田芳通&アントネッロの「マタイ受難曲」 ドラマティックな人間ドラマ・群衆ドラマ!(2026.10.04)

コメント
リナルドについて書いておられましたので、濱田芳通のサントリー音楽賞受賞記念演奏会リナルドが8月17日16:00〜 サントリーホールで開かれます。ご存知かとは存じましたが、サントリーホールはまだチケットが余っているようですので宣伝がてら筆を取りました。管弦楽は彼のアントネッロでイタリア語上演で日本語字幕付きです。(以前河村尚子の受賞記念のブラームスPCもガラガラでしたので)
投稿: 野口博司 | 2024年8月12日 (月) 23時38分
野口博司 様
コメント、ありがとうございます。
実は、あえて書きませんでしたが、知人に誘われて、アントネッロによる「リナルド」公演に出かけることにしたのですが、考えてみると私はバロックオペラになじんでいませんので、予習のためにソフトを購入したのでした。もちろん、アントネッロの評判は以前からきいています。当日を楽しみにしています。野口様のこのコメントがきっかけになって、当日、少しでも多くの方が会場に足を運んでくださると、こんなうれしいことはありません。
投稿: 樋口裕一 | 2024年8月14日 (水) 13時59分