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ルイージ&N響のブルックナー8番  現代的だが、確かにブルックナーの息づかい

 2024915日、NHKホールでNHK交響楽団定期演奏会を聴いた。指揮はファビオ・ルイージ、曲目はブルックナーの交響曲第8番(初校・1887年)。私の知っている版とはかなり違っていたが、違和感なく聴くことができた。素晴らしい演奏だった。

 先々週のカーチュン・ウォン指揮、日フィルのブルックナーの第9番は私には我慢できない演奏だった。簡単に言ってしまうと、かなりマーラー風の演奏だったのだと思う。

 私は酸っぱいものが大嫌いで、唐揚げなどの料理にレモンをかけられると、好きなものもいっぺんに最もまずいものに変貌してしまう。それと同じで、マーラー的なソースがかかると、大好きなブルックナーが我慢できないものになる。ネットを確認してみたところ、かなりの方がウォンの演奏を絶賛していた。そして、私とまったく同じように我慢できないと記しておられる方もいた。きっと、マーラー風のブルックナーを許容できるかどうかが評価の境目だったのだと思う。

 ただ、私はずぶの素人につき、私がマーラー風と感じるのが具体的にどのようなものなのかは分析的につかめずにいる。

 で、今日。実は不安に思いながら出かけた。ルイージもマーラーに定評がある。もしかして、今日もマーラー・ソースがかかっているのではないか?

 が、さすがルイージ。見事にブルックナーの息づかいの音楽になっていた。冒頭から深い音楽が鳴り響き、まとまりのある澄んだ音でスケール大きく大伽藍を作っていく。昔の大巨匠のような重々しい音ではないが、見事に構築的で巨大で精神的な深さを感じる。版の違いのため、あちこち、知らないメロディが出てきたり、終わったと思ったら続きがあったりして驚いたが、それも含めてきわめて説得力がある。

 第1楽章、第2楽章はじっくりと、しかし躍動感をもって進めていき、第3楽章で、じっくりじっくりと音楽を作っていく。テンポはかなり遅く、緊張感にあふれ、繊細にして緻密。そしてだんだんと盛り上がって激しいシンバル! そして、徐々に静まる。そして、第4楽章。繰り返し盛り上がって、最後に法悦へ向かう。

 N響はブルックナーの音を見事に作り出している。金管群の響きも言うことない。バランスも良く、全オーケストラによる爆発に私の魂は感動に震えた。版の問題がややこしいのは困ったものだが、ともあれブルックナーは素晴らしいと改めて思った。ルイージはまちがいなく、昔風でなくきわめて現代的でありながらも、十分にブルックナーの息遣いを持った演奏をしてくれる。ありがたいことだ。

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コメント

前日に同じ公演を聴きました。

この初稿を聴いていたら、ブルックナーは想像以上に20世紀に近づいていたように感じられ、演奏不能と指揮者に思われたのも、そこが最大の原因ではないかと感じられました。

そんな曲をルイージはかなり攻めた姿勢をとりながらとても分かりやすく、しかもブルックナーのこの曲に込めた本音のようなものを感じさせるほど見事な演奏を聴かせていたと思います。

もしこの初稿を演奏不可と言わず、そのまま初演していたらその後この曲はどう評価され演奏されていったのか。聴き終わった後そんなことも考えさせられた、とても充実した演奏会だったと思います。

来年のルイージによるマーラーの3番が、ブルックナーが近づこうとしたその20世紀への道のりの線上にある音楽として演奏されたら、今回の演奏とあわせてとても興味深いものになるかもしれません。

投稿: かきのたね | 2024年9月17日 (火) 02時40分

かきのたね 様
コメント、ありがとうございます。
私にはよくわかりませんでしたが、確かにかなり耳慣れない響きがあり、複雑な展開がありましたね。しかし、ルイージの手際の良さでまったく違和感なく、ブルックナーの音楽を受け止めることができました。

投稿: 樋口裕一 | 2024年9月18日 (水) 11時45分

初めてです 結論から申しますと 皆さんの評価とは真逆です
表現の多様性を求め過ぎて ブルックナーの骨格が見えずに
散発的でマーラー的な8番に感じられた

今回に限らず R・シュトラウスもワーグナーにしてもルイージにはあまり期待が出来ない。 むしろ下野竜也に期待したい。

投稿: パルジファル | 2024年10月20日 (日) 22時19分

パルジファル 様
コメントありがとうございます。
そうですか、マーラー風に聞こえましたか。テレビ放送の際に気をつけて聴いてみます。ただ、私はワーグナーはともかく、シュトラウスに関してもルイージは素晴らしいと思っています。私も下野さんの名演をとても楽しみにしています。

投稿: 樋口裕一 | 2024年10月22日 (火) 15時55分

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