« 佐藤俊介&スーアン・チャイ ポルタメントの多用が気になった | トップページ | 「影のない女」ではなかった! 単なる悪ふざけだった! »

オペラ映像「スペードの女王」「愛の妙薬」「ランメルモールのリュシー」

 すっかり秋めいてきた。オペラ映像を数本みたので感想を記す。

 

チャイコフスキー 「スペードの女王」1992516日 ウィーン国立歌劇場

 小澤征爾の指揮する「スペードの女王」。かつてこのソフトをみた記憶はあるが、細かいことはまったく覚えていない。久しぶりに見て、なかなかの名演だと思った。やはり小澤の音の威力に圧倒される。生気にあふれて勢いのある音。その音がドラマを作っていく。しばしばグッとくる。

 ただ、私は実は小澤の指揮するオペラについては、カラヤンやベームやアバドと比べて、あと少しのニュアンスが足りない気がしていたが、やはり今回もそう思った。素晴らしい音楽!でも、チャイコフスキーの得も言われぬオペラの世界としてはほんの少し物足りないと思う。小澤は、私はオペラより管弦楽曲のほうが断然いいと思う。

 ゲルマンを歌うウラディーミル・アトラントフとリーザのミレッラ・フレーニ、そして トムスキー伯爵のセルゲイ・レイフェルクスがやはり凄い。伯爵夫人はなんとマルタ・メードル。私が中学生のころ初めて買ったオペラの全曲盤「フィデリオ」のレオノーレを歌っており、その後、何枚かレコードやCDで追いかけた往年の名歌手。声は出ていないが圧倒的な迫力。そして、ポリーナはヴェッセリーナ・カサロヴァ。エレツキー公爵のウラディーミル・チェルノフはかなり弱く、合唱は粗いが、それ以外はとても満足。

 演出はクルト・ホレス。この時代の演出は読み替えや新解釈やらがないのがありがたい。素直に物語を追いかけてとても説得力がある。

 

ドニゼッティ 「愛の妙薬」 2023928日、103,5日 ロンドン、ロイヤル・オペラ・ハウス

 とても楽しい舞台! 演奏も演出もそろっている。

 肝心のネモリーノを歌うリパリット・アヴェティシャンはかなり若いテノール。ちょっと頭が弱くて頼りない善良な若者を見事に歌って、「人知れぬ涙」もとてもいいが、やはり影が薄い。存在感の上で、圧倒的なのは、アディーナのナディーン・シエラとドゥルカマーラのブリン・ターフェル。声のコントロール、声量、演技、ともにまさに自由自在という感じ。楽しいこと、この上ない。ベルコーレのボリス・ピンカソヴィチは最初のうち調子が上がらない様子があるが、すぐにこの役にふさわしく歌い出す。

 指揮はセスト・クアトリーニ。とてもいい演奏。わくわく感があり、オーケストラをしっかりまとめており、躍動している。

 演出・衣装はロラン・ペリー。舞台は20世紀後半?に移されている。トラックやバイクが田舎道を走っている。そこに、ペリーらしい軽快でリズミカルな動きの合唱団が大活躍する。みんなの動きも楽しくエスプリにあふれている。クスリと笑えるところがたびたびあり、わくわくしながら最後まで楽しめる。

 

ドニゼッティ 「ランメルモールのリュシー」2023121日 ベルガモ、テアトロ・ソチャーレ

「ランメルモールのルチア」のフランス語版。イタリア語版と台本も音楽もかなり異なっている。ジルベールというレーモン(イタリア語版ではレイモンド)の腹心がいたり、アリーサが登場しなかったりとかなりイタリア語版と異なる。

 演奏はピエール・デュムソーの指揮するオーケストラ・リ・オリジナーリ。古楽器使用のオーケストラで、独特の音がする。ただ、私としては、音程が定まらなかったり、よどんだ音がしたり、歌に即応しないなど、古楽器の意義をあまり感じることはできなかった。

 演出はヤコポ・スピレイ。舞台を現代に移し、暴力団の抗争のように描いている。アンリ(イタリア語版のエンリーコ)の率いるガラの悪い男たち(ただし、何しろ合唱団だから、どんなにガラが悪そうにふるまっても、顔は生真面目なのはいかんともしがたい!)が女性たちを凌辱するなどの場面がみられる。エドガールはジーンズをはいたアフリカ系男性なので、まさにニューヨークの1コマのような雰囲気なのだが、様々な出来事が森の中で展開する。どうにも演出意図が私にはつかめない。

 それに、練習時間が短かったのか、合唱団(少なくとも男性の三分の一以上が東洋系のようだ)の演技が十分にできていないようで、第三幕の狂乱の場など、合唱団はぼんやりしているように見える。せっかくの第3幕が少しも盛り上がらない。

 歌手陣では、アンリのヴィート・プリアンテが歌・演技とも見事。ジルベールのダビド・アストルガも複雑な役をうまく演じて、声も美しい。どうも悪役のほうが歌も演技も達者。

 リュシーのカテリーナ・サーラは声はきれいだが、歌唱も演技も一本調子で、血だらけになって歌いながらも、悲劇が伝わらない。狂気の雰囲気もない。エドガールのパトリック・カボンゴも声はきれいなのだが、もっと一本調子で、しかもフランス語の発音がうまくない。ほかの歌手たちはみんなとてもきれいなフランス語なのだが。アルチュールのジュリアン・アンリックは少し声が弱い。レーモンのロベルト・ロレンツィはかなり声が不安定。

 全体的に、あまり強い感銘を受けなかった。

|

« 佐藤俊介&スーアン・チャイ ポルタメントの多用が気になった | トップページ | 「影のない女」ではなかった! 単なる悪ふざけだった! »

音楽」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 佐藤俊介&スーアン・チャイ ポルタメントの多用が気になった | トップページ | 「影のない女」ではなかった! 単なる悪ふざけだった! »