テツラフの無伴奏ヴァイオリン演奏会 等身大の無伴奏!
2024年10月7日、紀尾井ホールで、クリスティアン・テツラフ無伴奏ヴァイオリン・リサイタルをきいた。曲目は前半に、J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番と無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番、後半にクルターグの「サイン、ゲームとメッセージ」から,そして、バルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ。
これまで何度かテツラフの演奏する協奏曲を聴いてきた。ただ、実を言うとそれほど感動したことがなかった。スケールが小さいというのか、ちょっと内向的すぎるというのか、協奏曲では、押し出しが弱い感じがしていた。そして、今回、無伴奏曲を聴いて、案の定、この人はこのような曲の方が向いていると、私は思った。
最初からバッハのパルティータ第2番! ほとんどの演奏会で、この曲は最後に演奏され、最終曲であるシャコンヌでコンサートは終わる。ところが、テツラフはこれを最初に持ってきた。快速の演奏。見事な指使い。しかし、少しも乱れず、完璧にコントロールされており、しかも自由感が漂っている。そうしながらなぜか見事に統一が取れている。
シャコンヌが始まってもあまり特別感がない。構えたところがなく、自然に音楽に入っていく。スケールの大きな演奏ではない。むしろ、余計なものを取り去った演奏とでも言うか。シャコンヌにまつわる様々な伝説を取り去って、楽譜だけを頼りの演奏した雰囲気が伝わってくる。しかし、そうであるがゆえに秘めたエネルギーが徐々に盛り上がっていく。巨大な世界は広まらないが、苦しみやら祈りの心やら希望やらの人間の魂の叫びが確かに聞こえてくる。等身大の素晴らしい演奏だと思った。
無伴奏ソナタ第2番もとてもよかった。こちらはパルティータほど自由な雰囲気はなかったが、研ぎ澄まされた音で深い世界を作っていく。
クルターグの曲は初めて聴いた。1926年生まれの、バルトークの影響を受けたハンガリーの作曲家。バルトークをより現代的に先鋭化させたような短い曲。おもしろかった。
最後のバルトークの無伴奏ソナタも圧巻。私はこの曲を戸田弥生さんの演奏で何度か聴いたことがあるが、戸田さんとはまた違った雰囲気の名演奏だった。戸田さんの演奏ほど悲劇的な雰囲気はない。もう少し客観的で研ぎ澄まされている。そこにじわじわと悲嘆の気持ち、それを乗り越えようとするような魂が感じられる。
私の偏見かもしれないが、テツラフは協奏曲よりも室内楽、とりわけ無伴奏のほうがいいのではないかと強く思ったのだった。
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