オペラ映像「コジ・ファン・トゥッテ」「大洪水」「エジプトのマリア」
引き続き、オペラ映像をみた。簡単に感想を記す。
モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」2013年3月 マドリード王立劇場
いくつかのオペラ映像をみて、アネット・フリッチュの美声と美貌に惹かれてこのブルーレイディスクを購入。賛否は別れるかもしれないが、それはそれで素晴らしい上演だった。
演出は映画監督ミヒャエル・ハネケ(私は何本かこの人の映画をみている)。指揮はカンブルラン。
まず驚くのは、あまりに遅いテンポ! 私はこのオペラに関しては速いテンポで、登場人物の心理など無視してコメディア・デッラルテ風に演奏するのが好きなのだが、この上演は正反対。恐ろしく遅いテンポでじっくりと登場人物の心理を描いていく。
レチタティーヴォもあまりに遅く、しかも無音になる場面もたびたびある。一般の舞台では避けるべき事態だが、さすがハネケ。沈黙が大きな意味を持っている。各登場人物の迷い、苦悩が浮き彫りになる。ドン・アルフォンソとデスピーナも過去にいきさつがあったようで、思い心情を抱いている様子がわかる。
それにしても、歌手陣が歌もさることながら、演技もうまい! ハネケの演出が見事だということでもあるのだろうが、みんなの容姿も美しく、まさに上質の映画をみているかのよう。苦悩が伝わってくる。同時に、誘惑に陥いる人間の業も伝わってくる。最後、四人は心を引き裂かれて相手を選べなくなる。なるほど、リアルに考えれば、このストーリーの結末はこうならざるを得ない。
フィオルディリージのアネット・フリッチュはやはり圧倒的。美声による繊細な歌と演技でこの役を演じる。ドラベッラのパオラ・ガルディーナの名前を初めて知ったが、まったく引けを取らず、美しい声と演技。フェランドのフアン・フランシスコ・ガテルはちょっと音程が曖昧だが、なかなかの美声。グリエルモのアンドレアス・ヴォルフは律儀な雰囲気がとてもいい。ドン・アルフォンソのウィリアム・シメルは圧倒的な存在感。デスピーナのシャシュティン・アヴェモはチャーミングでいわくありげな雰囲気を見事に出す。
そして、カンブルランの知的な音もいうことなし。これほどのスローテンポだとむしろ情感を出しにくいと思うのだが、情緒に流されずに心情を描き出す。
ドニゼッティ 「大洪水」(ナポリ初演版、エドアルド・カヴァッリ校訂)2023年11月17日 ベルガモ、ドニゼッティ歌劇場
ノアの方舟を題材にとった物語。このディスクで初めてこのオペラの存在を知った。
ノアの予言を周囲の人は信じない。セラはノアに従おうとするものの、土地の支配者である夫カドモの理解が得られず、信頼していた友人アダにも裏切られて、命を失う。その直後、雨が降りだし、ノアの予言が正しかったことがわかる。そんな物語。なかなかおもしろい。音楽も魅力的な歌が多く、ドラマティックでもある。
この上演は、本格的なオペラというよりも、セミステージ。登場人物はドレスやスーツ姿。舞台にテーブルが置かれ、カドモの配下とみられる男女が大勢で食事をしている。欲望にまみれて享楽にふけっているということだろう。その背景に映像が流されるが、それ以外にはほとんど舞台装置はない。映像で流されるのは、環境破壊の状況や享楽的な食事の様子。
歌手陣はレベルが高い。私が最も感銘を受けたのは、カドモのエネア・スカーラだ。堂々たる強いテノールで悪役を見事に歌っている。セラのジュリアーナ・ジャンファルドーニも美声で強い声。とてもいい。ノアのナウエル・ディ・ピエロも深いバスで見事。
ドニゼッティ歌劇場管弦楽団を指揮するのはリッカルド・フリッツァ。きびきびしていてとてもいいのだが、第一幕の終わりの合唱の部分は、背景の環境破壊のしつこい映像のせいもあって、うるさく感じた。オーケストラの精度が少し不足するというべきか。
とはいえ、全体的にはとても良い上演。このオペラの真価がわかった。
レスピーギ 「エジプトのマリア」2024年3月10日 ヴェネツィア、マリブラン劇場
このディスクによって初めてこのオペラの存在を知った。が、素晴らしい上演。素晴らしいオペラだと思う。
ストーリーは、娼婦マリアがキリストの教えを知って、信仰に目覚め、苦しみ、最後には救われて死んでゆく話。70分ほどの短いオペラ。演出、美術、衣装はピエール・ルイージ・ピッツィ。プロジェクター・マッピングで穏やかな海の風景や神秘的な風景が映し出される。マリアの心象風景、そして信仰心が示される。
マリア役のフランチェスカ・ドットが本当に素晴らしい。肉感的な娼婦が信仰に目覚めて苦しむ心を見事に歌う。ゾシモ修道院長を歌うシモーネ・アルベルギーニも余裕のある豊かな声が見事。
知らない曲なので何とも言えないが、マンリーオ・ベンツィの指揮もしっかりとオーケストラを掌握しており、美しい音色を紡ぎ出している。文句なし。大いに感動した。
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