オペラ映像「ボエーム」「カルメン」「売られた花嫁」「ルスランとリュドミラ」
トランプ大統領が「ガザを米が所有、全住民を域外移住」という案を打ち出したという。トランプに投票した人、そして共和党支持者は、これを常軌を逸していると思わないのだろうか。
そんな中、私は平和に自宅でオペラ映像をみた。簡単に感想を記す。
プッチーニ「ボエーム」 Eテレで放送
昨年(2024年)末、NHK Eテレで「マエストロ井上道義入魂の『ボエーム』」というタイトルで放送されたもの。プッチーニ嫌いの私は、録画したまましばらく放っておいた。時間の余裕ができたので、やっとみることにした。
いわれている通り、確かに井上道義入魂の演奏だと思う。読売日本交響楽団も美しい音を出す。びしっと決まり、静謐にして躍動的。しみじみと歌いあげる。私からするとプッチーニのイヤなところはたくさんあるが、それでも十分に説得力がある。
歌手陣も見事。まず、ロドルフォの工藤和真に驚嘆。知らない歌手だったが、世界の一流にまったく引けを取らない。しっかりとコントロールされた音程の良い美声。華やかさもあって、まさに堂々たる歌と演技。マルチェッロの池内響もしっかりした美声で自在に歌う。藤田嗣治風のヘアスタイルがおもしろい。まさにその時代のパリに集まった芸術家たちをほうふつとさせる。
ミミのルザン・マンタシャンはちょっと堅い声だが、しっかりと歌っていて見事。ムゼッタのイローナ・レヴォルスカヤ、コッリーネのスタニスラフ・ヴォロビョフもとてもいい。ショナールの高橋洋介も負けていなかった。
演出・振付・美術・衣裳は森山開次。黙役のダンサーが登場し、黒子のように火の様子を踊るなどする。ただ、ダンス全般に興味のない私としては、このようなダンサーが目に見えない霊のように思えて、不気味に感じる。プロコフィエフの「炎の天使」の霊気漂う部屋にこのようなダンサーが登場するのなら、わからぬでもないが、「ボエーム」に登場すると、オペラ本来の味がなくなってしまうような気がするのだが。
引退を表明した井上道義の境地を示す名演奏を聴くためのオペラとしては、私はとても満足だった。
ビゼー 「カルメン」1978年12月9日 ウィーン国立歌劇場
言わずと知れたカルロス・クライバー指揮、フランコ・ゼッフィレッリ演出・装置・衣装の伝説の名演。かつてDVDで観たことがあった(あるいはVHSかLDかもしれない)が、BDが再発売されたので購入した。
録音のせいだと思うが、音が随分と硬い。昔のトスカニーニの録音を思わせるところがある。が、何はともあれ、クライバーの指揮ぶりがすさまじい。切れの良さ、瞬発的な躍動感、えも言われぬわくわく感、そして緊迫感、どれをとっても言葉をなくす凄さ。
歌手陣もそろっている。やはり圧倒的なのは、ドン・ジョゼのプラシド・ドミンゴ。全盛期だろう。声の輝きが見事。カルメンのエレーナ・オブラスツォワは、カルメンにほしい退廃的な色気がないのが少々残念だが、十分に色香があり、魅力的。エスカミーリョのユーリ・マズロク、ミカエラのイソベル・ブキャナンもとてもいい。
ゼフィレッリの演出は、現在では考えられないような豪華さ。映画的でリアル。一時代をなしたオペラ演出であることは間違いない。
スメタナ 「売られた花嫁」 1980年12月-1981年2月
テレビ収録らしい。これも、かなり前、VHSだったかLDだったかで観た記憶があるが、このたびDVDを購入。一昨年、アダム・フィッシャー指揮、ルチア・ポップ、ジークフリート・イェルザレムが歌う1982年のウィーン国立歌劇場の上演(ドイツ語)を久しぶりにみて、ほぼ同時期のチェコ語によるこの映像をまたみたくなったのだった。ウィーンの上演もよいが、これも捨てがたい。
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団を指揮するのはズデニェク・コシュラー。たぶんかなりオーソドックスなのだろう、ツボを心得た良い演奏だと思う。歌手陣も充実している。マジェンカのガブリエラ・ベニャチコヴァーはきれいな声で可憐な娘を演じている。イエニークのペテル・ドヴォルスキーも好青年をうまく歌っている。この二人は一時期、チェコのオペラではたびたび名演奏を聴かせてくれたものだ。今聴いても、とても説得力のある美しい声だ。ミーハのヤロスラフ・ホラーチェクも芸達者でおもしろい。
オペラ自体がそうなのだろうが、ふんだんに民族色が取り入れられ、ダンスの部分も多い。それも楽しい。まさに東欧の田舎町ののどかな光景が広がっている雰囲気がある。「実は本当の子どもだった」という、最初から結末が読めるありがちな物語なのだが、それがまたほのぼのとしていていい。
チェコの民族楽派の嚆矢となったオペラだが、確かに、それにふさわしい作品だと思う。なかなかおもしろい!
グリンカ 「ルスランとリュドミラ」1995年 マリインスキー劇場
だいぶ前に購入していたが、そのままになっていた。「売られた花嫁」をみたついでに、ロシアの民族楽派のこのオペラをみたくなった。
先日、2011年のボリショイ劇場の映像をみたが、今回観るマリインスキー劇場のロトフィ・マンスーリ演出はそれよりもずっとオーソドックスでほぼ台本通り。衣装も舞台もかなり豪華。指揮はワレリー・ゲルギエフ。若々しいゲルギエフが作り出す音楽はかなりダイナミックといえそうだが、いかんせん、やはりこのオペラは、バレエの部分があまりに長く、退屈してしまう。
歌手陣は全体的にはかなりレベルが高い。ルスランのヴラジーミル・オグノヴィエンコ、ラトミールのラリーサ・ジャチコーワ、ゴリスラーヴァのガリーナ・ゴルチャコヴァはなかなかいい。ただ、リュドミラを歌っているのは世界の大スターになる前のアンナ・ネトレプコだが、これを聴いた時点では、近い将来、あれほどの大歌手になると思う人は少ないだろうと思う。容姿は抜群だが、声は堅いし、音程が怪しい。
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