NHKBSで放送され、録画していた映画をまとめて観た。いずれも、封切当時に観た記憶があるが、その後、55~40年ぶりに再び観たもの。簡単な感想を記す。
「ドクトル・ジバゴ」 1965年 デヴィッド・リーン監督
封切時、私は中学生だった(あるいは高校1年生?)と思う。当時、それなりに感動してみた記憶はあるが、ロシア革命についてもよく理解していないままみたせいもあるかもしれない。今回、60年ぶりくらいにみて、内容をほとんど忘れていたことに気づいた。記憶に残っていたのは、ララ(ジュリー・クリスティ)の美しさくらい。
改めてみて、よくできた映画だと思った。ロシア革命に翻弄される人間の物語。「社会ではなく個人こそが大事」というメッセージを強く訴える。ロシア革命の状況も手際よく描いている。スケールの大きな大歴史ドラマとして映像も美しい。ただ、二人の女性の間で板挟みになりながら誠実に生きようとするジバゴ(オマー・シャリフ)やその周辺に次々と革命の理不尽が襲い掛かるので、観ていて辛くなる。実際に、ロシア革命時の知識人はこのような目にあったのかもしれないが。オマー・シャリフの演技も一本調子に感じる。コマロフスキー役のロッド・スタイガー、妻役のジェラルディン・チャップリン、兄役のアレック・ギネスの演技に感嘆した。
「ミツバチのささやき」 1973年
これも封切時にみたのだが、人間の記憶はあてにならない。ところどころ記憶にあったが、私が最も鮮明に覚えていたのは主人公の少女が死んだ後の父親の嘆きの場面だったので、少女が死ぬものと思ってみていたら、死ななかった! 心の底からほっとした! どうもほかの映画と混同していたようだ。それにしても、これは素晴らしい映画!
まさに全編が美術品。美しい映像。光と影が絶妙。6歳くらいの少女アナの純真な表情も可愛い。
フランコ時代のスペインの田舎町で閉塞状況の中にいる家族。自然は生と死と性にあふれている。ミツバチもしかり。父親はミツバチを飼っているが、論文を書いておそらく外の世界に飛躍したいと思っている。母親は外の世界にいる昔の恋人に向けて届くかどうかわからない手紙を書いている。アナとイザベルの姉妹は無邪気に生きているが、あるとき、村の集会所で映画「フランケンシュタイン」をみる。これは、生と死の秘密を子どもたちにまざまざと知らせるものだった。しかも、隠されているが、そこに性的な要素も含まれる。そんなアナの前に、脱走兵が現れる。まさに外の世界からの来訪者! アナは脱走兵にフランケンシュタインを重ね合わせて、そこに大人の男を感じて交流するが、脱走兵は射殺されてしまう。アナはショックを受け、森をさまようが、街の人たちに助けられる。
そうした少女から大人への脱皮。それを閉塞状況の中に描き、そうしたアナの変化によって家族全体が閉塞状況から少し立ち直っていく様子も描かれる。
「エル・スール」 1983年 ヴィクトル・エリセ監督
「ミツバチのささやき」と同じ監督の10年ほど後の作品。「ミツバチのささやき」にもまして美しい映像。まるでジョルジュ・ドゥ・ラ・トゥールの絵のような陰影。すべての画面が一幅の美術作品。
1950年代と60年代、スペイン北部の村で暮らす一家の様子が、8歳の時と15歳の時の娘エストレーリャの目から描かれる。ナレーションが入っているので、「ミツバチのささやき」よりもずっと話はわかりやすい。父(オメロ・アントヌッティ)は南部の生まれだが、反フランコであったために父親と仲たがいして南部を離れ、妻子とともに北部で暮らしている。エストレーリャはあるとき、父がある女性に憧れていることを知る。そして、それが映画女優であり、かつて父が付き合っていたことを知る。それまで父は何度も家を出ていたが、ついに父が真相を娘に明かした翌日、家を出て自殺してしまう。
娘を深く愛し、南部での過去の暮らしを忘れようとしながらそこから離れられない男の物語と言えるだろう。多くの人間がこの男性と同じような面を持っているだろう。私も大いに共感する。しみじみと共感する。
ただ、私としては、「ミツバチのささやき」ほどの感動は覚えなかった。
「暗殺の森」 1970年 ベルナルド・ベルトルッチ監督
封切時にみて大いに感動した覚えがある。私はパゾリーニが大好きだったので、その弟子筋にあたる若手監督の作品だというので注目して観たのだったが、これまたドミニク・サンダの怪しい魅力以外ほとんど覚えていなかった。だが、改めて観て、これもまた圧倒的に素晴らしい映画だと思った。
まず斬新な映像美に驚く。今でも新鮮なのだから、当時はもっと驚いただろう。パゾリーニの映像詩と呼べる映像も素晴らしかったが、こちらは若いのに、もっとこなれている。画面の構図、背景など考えつくされており、音楽のようにそれだけで意味を作り出す。
子どものころ、同性愛者に襲われて、その人間を殺してしまったというトラウマを持つ青年マルチェッロ(ジャン=ルイ・トランティニャン)は、その異常な体験のゆえ、普通の人になりたいという願望を抱き続けている。ムッソリーニ政権下、マルチェッロは大勢に順応してファシストになり、秘密組織の指令を受けて、新妻ジュリア(ステファニア・サンドレッリ)との新婚旅行を利用して、パリ在住の恩師である反ファシズム運動を行うクアドリ教授の内情を偵察することになる。が、クアドリ教授の若い妻アンナ(ドミニク・サンダ)に惹かれ関係を持つ。しかも、偵察するだけでなく、夫妻を暗殺する命令を受ける。マルチェッロはためらって、自分では実行できずに手引だけする。夫妻は殺される。そして、ムッソリーニ政権は崩壊。ファシストの時代は終わる。すると、今度はマルチェッロは反ファシストの側につこうとする。しかも、どうやら子どもの頃のマルチェッロを襲った男はどうやら生きていたことに気づく。マルチェッロの人災が反転する。そのような状況が描かれる。
クールで冷酷だが人間の弱さを持つマルチェッロ、謎の女性アンナ、ちょっと愚かだが、それはそれで魅力的なジュリア。それぞれを説明過多にならずに描く。その手際にも驚嘆する。モラヴィア(ひところ、私はかなりこの作家の小説を読んだ!)の原作だというが、ストーリーもとてもおもしろい。久しぶりにみて、改めて感動した。
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