イタリア映画「慈悲なき世界」「マロンブラ」「鉄の王冠」「金持ちを追放せよ」「栄光の日々」
時間を見つけて、安売りのイタリア映画DVDセットをみている。簡単な感想を記す。
「慈悲なき世界」 1948年 アルベルト・ラトゥアーダ監督
これは正真正銘の傑作。フェリーニが脚本を担当すると、途端におもしろくなる。さすが! 第二次大戦直後、アメリカ軍がイタリアを管轄している時代。兄を探しに港町に行くアンジェラ(カルラ・デル・ポッジョ)は銃で撃たれた黒人米兵ジェリーを助ける。二人の間に恋が芽生えるが、アンジェラは犯罪組織の一員に組み込まれてしまい、ジェリーもそれに巻き込まれる。そこから抜け出してアメリカに密航しようとするが、犯罪組織のボスに見つかり、アンジェラは殺される。ジェリーはアンジェラの死体とともに車で岸壁から転落する。
まさに戦中戦後の慈悲なき社会を描く。ネオリアリズムのタッチで、戦後の紺頼がリアルに描かれる、犯罪に手を染める人、健気に生きる人が見事に描かれる。本国で差別される黒人の状況もしっかりと描かれている。アンジェラを助ける女性をジュリエッタ・マシーナが演じている。音楽はニノ・ロータ。
「マロンブラ」 1942年 マリオ・ソルダーティ監督
厳格な叔父に湖畔の城から出ることを禁止されて生きる令嬢マロンブラ(イザ・ミランダ)。かつて、同じ城に閉じ込められていた女性チェチーリアの手紙を見つけて、コロンブラはチェチーリアと区別がつかなくなる・・・。まあそんな話。ゴチック小説まがいの展開。このタイプの映画を「カリグラフィスモ」というのだそうだ。ただ、狂気じみた気位の高い令嬢、チェチーリアの息子らしい作家、遺産を争う貴族たちなどという道具立てに、私のような現代の高齢者はリアリティを感じることができない。ヒロインにまったく感情移入できなかった。
「鉄の王冠」 1941年 アレッサンドロ・ブラゼッティ監督
歴史映画。ヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞と言おうが、そんな良い映画とは思えなかった。いくらか史実、あるいは中世の伝説に基づいているのだろうか。中世の鉄の王冠をめぐる物語。オイディプス伝説とジークフリート伝説と「マクベス」をごたまぜにしたようなお話。背景や音楽は、ワーグナー、とりわけ「タンホイザー」や「ローエングリン」を思わせる場面がたくさんある。
ただ、どの人物も掘り下げが甘く、その心情が伝わらない。戦闘場面や、コロッセオのようなところでの決闘場面があるが、それも現在からみると、かなり安っぽくてリアリティに欠ける。
「金持を追放せよ」 1946年 ジェンナロ・リゲルリ監督
果物屋を営むジョコンダ(アンナ・マニャーニ)はとんとん拍子に成功して大富豪になり、没落した伯爵(ヴィットリオ・デ・シーカ)の館を買い取るが、集まってきた詐欺師たちにすべてをはぎ取られて、元に戻ってしまう。結局信頼できたのは、伯爵だけ。そうした人間喜劇を、マニャーニとデ・シーカが演じる。他愛のないストーリーだが、戦後の混乱期の経済事情も分かって、とてもおもしろい。
「栄光の日々」 1945年 監督:ジュゼッペ・デ・サンティス、マリオ・セランドレイ、マルチェロ・パリエーロ、ルキノ・ヴィスコンティ
第二次大戦末期、イタリア北部は、ナチスとファシストに占領されており、愛国者たちはパルチザンの戦いを挑んだ。その有様を描くドキュメンタリー。実写の力というべきか、まさに「事実」が迫ってくる。戦後のイタリア映画を支えたフェリーニ、ヴィスコンティ、パゾリーニといった人々がネオリアリズムから出発したことがよくわかる。
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