BCI「マタイ受難曲」 吉田のエヴァンゲリストが素晴らしかった
2025年4月20日、彩の国さいたま芸術劇場音楽ホールでバッハ・コレギウム・ジャパンによるヨハン・セバスチャン・バッハ「マタイ受難曲」を聴いた。指揮は鈴木雅明。BCJの実力のほどはもちろん知っているし、この団体の「マタイ」も聴いたことがあるので、今回は見送ろうかと思っていたが、今回、エヴァンゲリストを歌うのは吉田志門だという。私がこの数年、シューベルトやシュトラウスやフォーレの歌曲をきいて実力のほどを知った歌手だ。これは聴かねばならないと思ってあわててチケットを入手。期待通り素晴らしかった。
私は実はずっと前からBCJのオーケストラや合唱には満足していたが、ゲストとして招かれる独唱者には不満を抱いていた。これだけのレベルのオーケストラと合唱団の演奏のわりには独唱者がそろっていないと思ってきた。だが、今回は最高度の充実。
やはりエヴァンゲリストの吉田志門が素晴らしいと思った。日本人で初めて世界的なレベルでエヴァンゲリストを歌える歌手が誕生した!と思った。柔らかい美声、しなやかなで知的な歌いまわし、(私はドイツ語がまったくできないので、よくわからないが、耳で聞く限りは)完璧なドイツ語の発音、いずれも素晴らしい。ペテロの否認、ユダの後悔、イエスの死の場面などの無念さの表現も見事。エヴァンゲリストという役割をはみ出すことなく、しっかりと聖書の「語り手」の心を伝える。私が実演で聴いたエヴァンゲリストの中で今回が最も感銘を受けた。これまで録音で聴いてきた世界的名歌手に匹敵すると思う。吉田志門はこれまでエヴァンゲリストの経験はほとんどないと思うのだが、もう数十回も歌ってきたかのような安定感だった。
イエスなどを歌うヨッヘン・クプファーも気品のある声と表現。イエスの気高さがじかに伝わる。ソプラノのハナ・ブラシコヴァも驚くべき輝かしくも落ち着いた声が素晴らしい。安川みくも清楚の美声で細かいところまで神経の行き届いた歌唱。バスの加耒徹も知的でしっかりした歌。テノールの櫻田亮も落ち着いた声でとても好感が持てる。カウンターテナーの青木洋也も安定して見事。アルトのマリアンネ・ベアーテ・キーラントも美声なのだが、私にはオーケストラとかみ合っていないように思えた。
コンサートマスターは寺神戸亮、オルガンは鈴木優人。すべての奏者が超一流ですべての音が生き生きとしている。強い力で信仰心を促す。しかし、この信仰心は若々しい躍動感にあふれている。鈴木雅明はかなりの年齢だと思うが、この若々しい音楽は驚異的。
考えてみると、「マタイ受難曲」を実に久しぶりに聴いた。ひところはしょっちゅうCDで聴いていたのだが、トシのせいかこんな生真面目で長い曲がしんどくなってきた。が、久しぶりに聴いてみると、やはりこれはバッハの中でも別格だと思う。すべての曲が信じられない完成度で心に迫る。静かにしみじみと深い感動を覚える。最後の合唱では涙が出てくる。
ひところ、きちんとこの曲を「研究」したいと思って厚い本を何冊か買ったのだったが、きちんと読んでいない。改めてこの曲に向かいたいと思った。
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