山下裕賀リサイタル 素晴らしいメゾ・ソプラノが現れたものだ!
2025年6月26日、紀尾井ホールで「明日への扉 第45回山下裕賀リサイタル」を聴いた。ピアノ伴奏は多田聡子。前半は、3人の作曲家によるジプシーにまつわる歌。まず、ニゼッティの「ジプシーの娘」、ブラームスの「ジプシーの歌」、ドヴォルジャークの「ジプシーの調べ」、後半にソプラノの宮地江奈とテノールの工藤和真が加わって、ベッリーニ:の「カプレーティとモンテッキ」ミニハイライト。素晴らしかった。
山下裕賀はまずドニゼッティで、ベルカントの見事な歌を聴かせてくれた。リサイタルの最初の歌は音程が不安定になりがちになるが、まったくそんなことはない。最初から、ぴたりと音程のあった美声で、勢いがあり歌心がある。華やかにして躍動的。すべての音域で安定して声が出ている。
ブラームスの「ジプシーの歌」は打って変わって、ドイツリートの世界。ただ、昔、ジェシー・ノーマンの録音でよく聴いていたが、ノーマンの歌に聴き慣れた耳からすると、あまりに軽やかで健康的なのにびっくり! 私はもっとジプシーらしい暗い情念にあふれた音楽だと思っていた。が、歌詞を読んでみると、確かに健康で溌剌として若々しい音楽という解釈でまったく問題ない。山下は、まさに魂の奥底にある生命力を歌っている!
ドヴォルザークもブラームスと同じようなアプローチだといえるだろう。が、もっとしなやかでもっと初々しい。「母が教えてくれた歌」はしっとりして見事だった。今どきこんな言い方は流行らないかもしれないが、まさに日本人離れした歌唱! このコンサートのタイトルは「明日への扉」ということだが、この人にとっての「明日」は、世界トップのメゾ・ソプラノ歌手になることだろう。すでに世界のトップクラスを行く歌唱と言って間違いないと思う。素晴らしいメゾ・ソプラノが現れたものだと思った!
後半は、工藤和真のテバルドの歌で始まった。工藤の実演を聴くのは初めてだが、冒頭こそ、少し声のコントロールが甘かったもののすぐに本調子になって、圧倒的な歌声を聴かせてくれた。日本人歌手によるこんなに本格的なイタリアオペラのアリアを初めて聴いた! 堂々たる美声、完璧なコントロール。
山下のロメオも素晴らしい。前半では抑制していた強いドラマティックな声が見事だった。ジュリエッタの宮地江奈もきれいな声でとてもよかった。ロメオとジュリエッタの二重唱はぴたりと音があって心地よかった。ロメオとテバルドの二重唱も絶品。若い歌手たちが世界に羽ばたいているのを実感した。
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