葵トリオ 健康的だが説得力のあるショスタコーヴィチの第2番
2025年6月13日、サントリーホール ブルーローズでサントリーホール・チェンバーミュージック・ガーデン 葵トリオのコンサートを聴いた。曲目は前半にベートーヴェンのピアノ三重奏曲第5番「幽霊」とマルティヌーのピアノ三重奏曲第2番、後半にショスタコーヴィチのピアノ三重奏曲第2番。
くっきりした音像による躍動的で明快な音楽。実はベートーヴェンの第1楽章は、席のせいなのか、秋元孝介のピアノの音がけたたましく響きすぎる気がしたが、耳が慣れたのか、第2楽章以降は気にならなくなった。小川響子の躍動感あるヴァイオリン、伊東裕の趣があって知的なチェロ。三つの楽器が見事に絡み合う。明快な音造りをするこのトリオなので、第2楽章の「幽霊」の部分も、脚がないような曖昧な雰囲気ではなく、明快な音で深みのある半音階的な和音の動きを作り出す。
マルティヌーのピアノ三重奏曲第2番は初めて聴いたが、初めて聴いてもわかりやすいとても魅力的な曲だった。弦楽器の音のからみあいがとてもおもしろい。マルティヌーの室内楽で初めて面白いと思った!
後半のショスタコーヴィチもとてもよかった。ただ、私の期待していたショスタコーヴィチではなかった。葵トリオが演奏すると、良くも悪くも健康的で若々しくなる。ショスタコーヴィチ特有のヒステリックといえるまでの神経の高ぶりが聞こえてこない。この曲は親友の死に触発されて作曲された追悼の曲であり、悲しみの曲なのだから、もっとそのような感情をたたきつける演奏を期待していたのだったが、まったくそうではなかった。第3楽章の悲しみのメロディも、終楽章の叩きつけるような音も、悲しみをかみしめ、人生の理不尽への怒りと絶望の爆発にかられる音に聞こえない。むしろ、純粋に器楽的な音の鮮烈なからみあいに聞こえる。もちろん、それはそれで非常に説得力がある。ショスタコーヴィチの精神が乗り移ったような演奏ではなく、楽器の持つ音の世界の挑戦とでいうか。音の世界が高揚してゆき、聞き手を音響的興奮に巻き込む。私としては期待とは違っていたものの、それはそれで十分に納得して聴いたのだった。
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