オペラ映像「アディーナ」「魔笛」「オルフェとウリディス」「仮面舞踏会」
猛烈な暑さの中、何本かオペラ映像をみた。
あ、そうそう、その前に、私的なことでは、2025年7月24日の読売新聞のシングルスタイルという面に私のインタビュー記事が大きく取り上げられたことを付け加えておく。ただ、聞くところによると、私の出身地である九州ではこの面は掲載されていないらしい。九州の知人の多くは地方紙を購読していると思うので、いずれにせよ読んでくれる人は少なかったと思っていたが、少し残念!
主として拙著「70過ぎたら『サメテガル』」(小学館新書)について語った。まあ、要するに、「年を取ったら、イエス・ノーをはっきりさせる必要はない。生産社会から脱して、サメテガル(どちらでもいい)と考えて、気楽に生きましょう」といったことを語っている。拙著では、インタビューでは語らなかったもっと深いことも多少は語っている!
4本のオペラ映像の感想を記す。
ロッシーニ 「アディーナ」 2018年8月 ペーザロ、ロッシーニ劇場
ロッシーニ25作目のオペラ。90分に満たないファルサ(笑劇)。
恩のあるバクダッドの太守に結婚を申し込まれたアディーナはそれを承諾したが、その後、死んでいると思っていた昔の恋人セリーモが現れる。セリーモと逃げようとしてとらえられるが、実はアディーナは太守の離れ離れになった娘だったことがわかって、めでたしめでたし、という筋立て。
これは本当に素晴らしい上演! 歌手がそろっている。まず何よりも圧倒されるのが、アディーナを歌うリセット・オロペサだ。驚くべき美声! こんな美声、めったに聴けるものではない。しかも声の技術も完璧で、躍動感にあふれ、自由に歌いまくる。外見もこの役にふさわしい。
セリーモのレヴィー・セクガパーネはアフリカ系の若いテノールだが、この人も素晴らしい。かつての声の輝きを失いつつあるフローレスに代わる次代のスターなのだろう。輝かしい高音で声のエネルギーがすさまじい。太守のヴィート・プリアンテはベテランだが、美声で軽妙、言うことなし。ムスタファのダヴィーデ・ジャングレゴリオもしっかりとしたバリトン、アリのマッテオ・マッキオーニも輝かしいテノール。よくもこんなに高いレベルの歌手がそろうものだ!
ディエゴ・マテウスがロッシーニ交響楽団を指揮している。若い指揮者だが、これも溌剌としてとてもいい。演出はロゼッタ・クッキ。ロラン・ペリーのような雰囲気の軽快で色彩的な舞台になっている。太守の家はまるでデコレーションケーキ! まさにおとぎ話の世界を作り出す。歌手陣の動きも楽しい。
モーツァルト「魔笛」 ウィーン国立歌劇場 2025年2月1・4・7日(NHK/BSで放送)
もちろんかなりレベルの高い上演ではあるが、私はそれほどの感銘は受けなかった。
指揮のベルトラン・ド・ビリーは明確でくっきりした演奏。だが、その分、勢いが失われてもたついている感じがした。バルボラ・ホラーコヴァーの演出については、最後、夜の女王が放逐されるのではなく、ザラストロと和解して、登場人物みんなでミニチュアのグロッケンシュピールを鳴らす、という平和な結末になることをのぞいて、特に新解釈らしいところはなかった。
歌手陣ではザラストロのゲオルク・ツェッペンフェルトが突出していると思った。タミーノのユリアン・プレガルディエンは不調だったのか、第1幕ではかなり声のコントロールが甘く、息苦しささえ感じた。夜の女王のセレナ・サエンツはきれいな声でしっかり歌うが、それを越す凄まじさは感じられなかった。パミーナのスラーフカ・ザーメチニーコヴァーは自然な発声の美声でとても好感は持てるのだが、ちょっとミュージカル風の平板な歌いまわしなのが気になった。パパゲーノのルートヴィク・ミッテルハンマーもなかなかの美声でしっかり歌っているが、あと少しの魅力がほしいと思った。
グルック 「オルフェとウリディス」2022年4月21日 フィレンツェ五月音楽祭歌劇場
「オルフェオとエウリディーチェ」のフランス語版。これは素晴らしい上演! まず演奏がいい。指揮のダニエーレ・ガッティが高貴で歌心にあふれた演奏を聴かせてくれる。
ピエール・オーディの演出も簡素にしてとても刺激的だ。大道具も小道具もほとんどない簡素な舞台、3人の登場人物はいずれも白の衣装を身に着けている。ただ動きと表情から、妻ウリディスの死後、オルフェはアムールに恋し、亡きウリディスがそれに嫉妬している様子がわかる。最後まで緊張感を孕んでいる。確かにこれだけで、亡くした妻をよみがえらせようという時にまで人間に付きまとう愛と嫉妬という業を描いている。
歌手陣も見事と言うしかない。オルフェのフアン・フランシスコ・ガテルは外見こそちょっとこの役には老けすぎているが、声は高貴。この役にふさわしい。細かいところまで神経の行き届いた知的な歌唱。ウリディスのアンナ・プロハスカも潤いのある美声、アムールのサラ・ブランチは清らかな声で、しかも、確かにウリディスの嫉妬を招きそうな美貌なので、とても説得力がある。
登場人物の心理を描くバレエも含めて、しみじみとした感動を誘う上演だと思った。
ヴェルディ 「仮面舞踏会」 2017年 バルセロナ、リセウ大劇場
リッカルドを演じるピョートル・ベチャワが素晴らしい。私はこの人の歌うのは、実演や映像でかなり接してきたが、どんな役でも常にきわめて高水準。強い声で、しかも十分に叙情的。アメーリアのケリ・アルケマは色気のある容姿と声で、この役と少しイメージが異なる。カルロス・アルバレスがレナートを歌っているが、さすがの歌唱で、陰湿な悪役をみごとに歌う。ウルリカのドローラ・ザジックは不気味さを出し、オスカルのエカテリーナ・トレチャコワは美貌としっかりした声でとてもいい。
レナート・パルンボの指揮はきわめてドラマティックで起伏がある。このオペラ、私はあまりなじんでこなかったので、ほかの演奏と比較することはあまりできないが、とてもよい演奏だと思う。
演出はヴァンサン・ブサール。首を吊った女性(アメーリア?)の人形が舞台にかかっていたり、赤い車(ポルシェ?)のモデルカーが登場したりと、運命に操られる状況を暗示するが、比較的オーソドックスな演出だった。
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