東京二期会「さまよえるオランダ人」 斬新な舞台ではあった!
2025年9月13日、東京文化会館で東京二期会公演「さまよえるオランダ人」をみた。指揮は上岡敏之、演出は深作健太、管弦楽は読売日本交響楽団。
歌手陣は大健闘だと思う。中でも、ゼンタの鈴木麻里子は声が伸び、音程も確かで表現力も豊か。第三幕幕切れの絶唱は大迫力だった。オランダ人の斉木健詞も初めのうちこそ、少し不安定だったが、すぐに立て直して、見事な歌唱を聴かせてくれた。ダーラントの志村文彦も安定した声、マリーの川合ひとみもしっかりした声。舵手の与儀巧はきれいな声でよく伸びたのだが、初めのうち少し声が詰まるところがあった。エリックの樋口達哉はいかにもイタリアオペラ風の歌いまわしだったのだが、これは指揮者の指示だったのだろうか。三澤洋史に合唱指揮による二期会合唱団は、いつも最高度の合唱を聴かせてくれる三澤洋史の指揮にしては、あまり迫力を感じなかった。
私が問題を感じたのは、上岡敏之の指揮だった。まるで煽り運転のような演奏だと思った。テンポが一定せず、激しく煽ったり、テンポをぐっと落としたり、一部の楽器を強調したりを繰り返す。序曲でもあっと驚く箇所がいくつもある。おそらく指揮者の指示だと思うのだが、ゼンタのバラードでも特異な歌いまわしがある。そして、第2幕や3幕など、かなり大胆なカットがある。きっと私にはわからない独自の解釈があり、楽譜に基づいたしっかりとした根拠があるのだと思うが、私にはこれらは恣意的で不安定に聞こえる。少なくともワーグナーでは、テンポを動かさないほうがドラマが深まると思うのだが。
深作の演出は、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒという画家の「氷海」という絵画をモティーフにしている。プログラムに記載された「演出ノート」によると、ロマン主義とは北に向かう思想であると捉え、オランダ人をメアリー・シェリーの「フランケンシュタイン」の主人公と重ね合わせているらしい。つまり、オランダ人は北極探検隊が出くわしたフランケンシュタインということになるのだろう。そして、最後、救済のテーマとともに、オランダ人とゼンタが愛を成就するシーンが示される。つまりは、この演出は、世間に打ち捨てられた孤独な魂が愛を成就するというロマン主義精神のエッセンスがこのオペラを作っていることを示してくれたということだろう。
ちょっとやりすぎだと思うし、セリフとの整合性があまりに不足するが、意図としてはおもしろい。演出ノートを読まないことには何のことやらさっぱりわからないので、私としては演出を手放しで称える気にはならないが、ワーグナーの精神を出汁にして自説を唱えようとしているわけではなく、しっかりとオペラを描こうとしているのはありがたい。
ともあれワーグナーは素晴らしい。問題点を感じる演奏や演出であっても、そのような斬新な試みをしてくれること自体はとてもうれしいことだ。
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