METライブビューイング アンコール「フィデリオ」
METライブビューイング・アンコール「フィデリオ」をみた。2025年3月15日の公演。
このところ、メトロポリタン・オペラにはほとんど常に満足してきた、いやそれどころかしばしば深く感動してきたが、今回は残念ながら、とても退屈だった。はっきり言って常軌を逸したつまらない演奏だと思った。最後まで鑑賞するのがつらかった。
歌手陣は充実している。
圧倒的に素晴らしいのはレオノーレを歌ったリーゼ・ダーヴィドセン。妊娠中だというが、見事な声。伸びがあって、ぴしりと音が決まる。フロレスタンのデイヴィッド・バット・フィリップも美声が際立つ。伸びがあってとてもいい。ピツァロのトマシュ・コニエチュニはさすがの悪役ぶり。マルツェリーネを歌うイン・ファンも澄んだ声でチャーミング。ロッコのルネ・パーペは、第一幕のアリアではどうもかなり不調のようで声が伸びなかったが、第2幕では持ち直した。ジャキーノのマグヌス・ディートリヒ、フェルナンドのスティーヴン・ミリングもさすが。
ただ、これほど名歌手が美声で歌っているが、何しろスザンナ・マルッキの指揮があまりに平板でドラマがないので、歌も生き生きとしてこない。オーケストラはずっとスローテンポで、ただきれいな音を出すことを心掛けているようだ。ずっと同じ表情で、いつまでもドラマが盛り上がらず、スリリングさがまったくなく、緊迫感もなく、弛緩してだらだらと、ただ美しい音が続く。これではオペラにならない。少なくともベートーヴェンのオペラにならない。第1幕のレオノーレのアリアも、せっかくのダーヴィドセンの歌であるにもかかわらず、レオノーレの怒りが伝わらず、囚人たちの合唱も何の感情もこもらず、フロレスタンの第二幕冒頭の歌も少しも絶望が伝わらない。ドラマが盛り上がるはずの、レオノーレが正体を明かす場面もまったく感動的ではない。最終場も解放の喜びが伝わらない。
演出はユルゲン・フリムの伝統的なもので、新しさはまったくない。これも退屈を誘う大きな要因だろう。
とても残念だった。が、まあ名歌手たちの声を聴けたのでまあよかったと思おう。
| 固定リンク
「音楽」カテゴリの記事
- ヴィオッティ&東響のショスタコーヴィチの第10番に圧倒された(2026.10.11)
- ヴァン・カイック弦楽四重奏団 音楽そのものの醍醐味!(2026.10.09)
- 新国立劇場「イタリアのトルコ人」 演出の工夫に感心!(2026.10.07)
- カルテット・アマービレ&今井信子のブラームスの感動!(2026.10.06)
- 濱田芳通&アントネッロの「マタイ受難曲」 ドラマティックな人間ドラマ・群衆ドラマ!(2026.10.04)

コメント