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佐藤克彦リサイタル 素晴らしかったが・・・

 2025年10月16日、古賀政男音楽博物館けやきホールで第4回佐藤克彦バリトン・リサイタル〈奏楽堂日本歌曲コンクール第一位受賞記念〉を聴いた。佐藤さんは大分県日田市出身だという。私も同じ日田市出身(数年前まで本籍は日田市だったが、実際に暮らしたのは5歳までで、そのあと、父の仕事の関係で同じ大分県内の中津市、大分市で過ごした)。同郷の人が日本歌曲コンクールで第一位を取ったのであれば聴かないわけにはいかない。

 ピアノは新井千晶、曲目は前半に北原白秋の詩による日本歌曲。山田耕筰の「六騎」、「かやの木山の」、「鐘が鳴ります」、「馬売り」、團伊久磨の歌曲集「三つの小唄」、木下牧子の「たんぽぽ」(畑中良輔、花岡千春編曲の「花林」のピアノ版)、後半にヘンデルの「オンブラ・マイフ」グルックの「パーリデとエレーナ」より「おお、私の優しい恋人よ」、ラヴェルの歌曲集「ドゥルシネア姫に思いを寄せるドン・キホーテ」、ビゼー「カルメン」より「闘牛士の歌」、マネネの「エロディアード」より 「儚い幻」。

 音程の良い素晴らしい美声! ダイナミックレンジが広く、スケールが大きい。大きな世界が広がっていく。日本歌曲コンクールで第一位を取っただけのことはあると思った。独特の世界といってよいだろう。大ホールであったとしてもこの豊かな声は朗々と響き渡るだろう。目の前に大きな世界が広がっていく。

 大きな将来性のある歌手だと思った。きっとこれから大活躍するだろう。楽しみだ。

 ただ、私はちょっと疑問を持たないわけにはいかなかった。あまりにスケールが大きすぎる。「オンブラ・マイフ」もこれで素晴らしい。「闘牛士の歌」も素晴らしい。しかし、北原白秋の、時に悲哀にあふれ、親密でひそやかな世界と合わない気がした。木下牧子作曲の「たんぽぽ」なども、歌われる世界ははるかにたんぽぽの大きさを通り越して、広大な世界になっている。ラヴェルの世界とも異なる気がした。ラヴェルのこの歌曲集は、まさにラヴェルらしい、諧謔と皮肉を交えた真摯な叫びがあるはずなのだが、スケールが大きくなりすぎたために微細な点が見えなくなっているのを感じた。

 かつて私はハンス・ホッターの歌曲を聴いた。ジェシー・ノーマンの歌う歌曲も聴いた。この二人のダイナミックな声はすさまじかった。東京文化会館やNHKホールに響き渡った。佐藤克彦の歌もそれに近い声の威力を持っているといえるかもしれない。だが、ホッターやノーマンはもっと繊細でもっと親密でもっと心の襞をひそかに歌うような歌唱も示してくれた。佐藤の歌にはスケールの大きさはあったが、微細さはあまり感じられなかった。

 もちろん、曲によるだろう。ヴェルディなどのイタリア・オペラは今日の歌い方で素晴らしいと思う。ロシアの歌曲などもこの人に合っていると思う。きっと最高の歌を聴かせてくれるだろう。だが、もっと繊細で、言葉の響きによって心の襞までも伝わるような歌を聴かせてほしい。そのような面があると、スケールの大きな歌にももっと膨らみが生まれ、もっとドラマティックで豊かな世界が広がっていくだろうと思った。

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