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オペラ映像「ホフマン物語」「無口な女」

 五島列島の旅から帰宅してから、のんびりと過ごしている。疲れは十分に取れたが、まだ現実生活に復帰できずにいる。旅行の前後に何本かオペラ映像をみたので、感想を簡単に記す。

 

オッフェンバック「ホフマン物語」ロイヤル・オペラ・ハウス 2024年11月10,25,28日

 先日、ザルツブルク音楽祭での上演の映像をみたばかりだったが、こんどみたのはフアン・ディエゴ・フローレスがホフマンを歌うコヴェント・ガーデンでの上演。大喝采を浴びていたが、結論から言うと、私としては、ザルツブルク音楽祭の上演ほどの感銘は受けなかった。

 今回の上演は、フローレスひとりが突出していて、ほかの歌手はまずまず、そして、そのフローレスも、私の好みからすると、少し違和感が残る。

 そのなかでは、オランピアを歌うオルガ・プドワは容姿もこの役にふさわしく、演技もまさにロボット。声も美しくて、とてもよかった。アントニアのエルモネラ・ヤオ(かつて、神奈川県民ホールの「椿姫」でゲオルギューの代役としてヴィオレッタを第一幕まで、とても見事に歌ったものの、突然、声が出なくなって降板したことがあった。なつかしい名前だ!)はきれいな声で歌うが、少々インパクト不足。ジュリエッタのマリーナ・コスタ=ジャクソンは私にはかなり声が不安定に聞こえる。ニクラウスなどを歌うジュリー・ブリアンヌはもちろん悪くないのだが、ザルツブルク音楽祭でのケイト・リンジーのりりしいニクラウスウと比べると、魅力に欠けるといわざるを得ない。

 そして、フローレスについても、かつてほどではないとはいえ、まだまだ輝かしく強い声だ。フランス語もしっかりして、健闘しているとは思うのだが、少なくとも私の思うホフマンとはかなり異なる。ザルツブルク音楽祭でのバンジャマン・ベルナイムやかつてのニール・シコフの投げやりになり悄然としながらも真摯に恋の苦悩を歌うホフマンに比べると、ホフマンの苦しみが伝わってこない。フローレスが歌うとスターの歌になってしまう。

 演出はダミアーノ・ミキエレット。ニクラウス(というかミューズというか)は羽をつけた鳥(または変形キューピッド)?の姿だが、演出なのか、中年っぽい容姿と動きがめだって、何をしようとしているのか、私には理解できなかった。指揮はアントネッロ・マナコルダ。エネルギーにあふれる演奏だと思うが、これも私には違和感があった。逆に言うと、先日みたザルツブルク音楽祭の「ホフマン物語」が素晴らしかった、と改めて認識したのだった。

 

「ホフマン物語」 2002年1月4・9日 パリ・オペラ座(バスティーユ) 

 もう1本、「ホフマン物語」をみたくなってDVDを購入した。前にもこのブログに書いたが、ヨーロッパ旅行中、ホテルで休息中にひょいとテレビをつけたら、クラシック専門チャンネルで「ホフマン物語」が放送されていた。ホフマン役があまりに凄かったのだが、それが誰だかわからなかった。終了後のクレジットで、これが噂のニール・シコフだと知ったのだった。が、実はその公演の映像は、ホテルのテレビでみただけで、DVDなどは持っていなかった。先日、バンジャマン・ベルナイムの歌うホフマンを見ているうち、ぜひともシコフの歌をもう一度聴きたいと思ってこのDVDを探したのだった。

 このオペラの決定版の一つと言ってよいほどの上演だと思う。

 やはりシコフは素晴らしい。ベルナイムと双璧だと思う。見事なフランス語、しなやかな歌いまわし、リアリティにあふれ、等身大の苦悩が身に迫ってくる。シコフという歌手、少なくとも日本ではあまり有名にならなかったが、もう少し評価されてしかるべき大歌手だと思う。

 オランピアを歌うのはデジレー・ランカトーレ。チャーミングで、完璧な声でこの役を演じる。アントニアを歌うのはルース・アン・スウェンソン。透明な美声がこの役にふさわしい。私はこの歌手の名前を知らなかったが、強い印象に残った。ジュリエッタを歌うベアトリス・ユリア=モンゾンは、容姿については申し分ないが、歌はちょっと堅め。とはいえ、十分に説得力がある。リンドルフなどはブリン・ターフェル。ちょっと癖が強すぎるが、もちろん見事な歌。ミューズなどはスザンヌ・メンツァー。ちょっと華の不足は感じるが、文句なしの歌と演技と容姿。いずれも穴がなく、全員がそろっている。

 演出はロバート・カーセン。抽象化された場面だが、それぞれの場面が見た目に美しく、ホフマンの苦悩がじわじわと伝わる。指揮はヘスス・ロペス=コボス。ちょっとおとなしめの指揮だが、歌手に寄り添ってドラマを盛り上げているのがよくわかる。

 

「無口な女」 ベルリン国立歌劇場 2025年7月19・22・24日 NHK/BSで放送

 NHK/BSで放送された。私はこのオペラの実演を見たのは2002年に東京オペラ・プロデュース公演のみ。松岡究の指揮、松尾洋の演出だった。かなり以前に映像もみた記憶があるのだが、ネットで調べても映像の記録が出てこない。記憶違いだろうか。私はシュトラウス好きなので、CDはかなり前から聴いていたが、ちょっと退屈だと感じていた。実演や映像をみて初めて納得したのを覚えている。

 今回の上演は、まさに画期的というべきか。本当に楽しめる。改めてこのオペラが名作であることを痛感する。まさにロッシーニの「セヴィリアの理髪師」とドニゼッティの「ドン・パスクワーレ」を合体させたような楽しさ。

 まず何より、ティーレマンの指揮があまりに見事でほれぼれしてしまう。細かいところまで神経が行き届き、かっちりとしながらも、十分にしなやかでドラマティックで、歌心もある。昔は生真面目な感じが強かったが、ユーモアのセンスも増した気がする。ベルリン国立歌劇場管弦楽団もウィーンフィルなどにまったく劣らない見事な音でティーレマンに応えている。うーん、ティーレマンが指揮すると、楽器の一つ一つが生きた音を出して、それが目に見えるように絡み合っていく!

 ジャン・フィリップ・グロガーの演出も納得できる。舞台を現代に移しているが、大きな読み替えをしたわけではなく、うるさい世界を嫌悪する老人と、騒音を出す若者たちの交流を、嫌味なく、ユーモアたっぷりに描き、孤立して世間になじまなかった老人が周囲の人を許容していくさまが語られる。

 モロズス卿のピーター・ローズは、先日のウィーン国立歌劇場の日本公演「ばらの騎士」で見事なオックス男爵を歌った歌手だが、オックスに勝るとも劣らぬ存在感を示して素晴らしかった。理髪師のサミュエル・ハッセルホーンはしっかりした美声で軽妙な役を歌う。ヘンリー・モロズスのシヤボンガ・マクンゴはアフリカ系の若い歌手だが、高貴な美声。アミンタのブレンダ・レイ、家政婦のイリス・フェルミリオンもとてもいい。

 シュトラウスにはもっともっと名作がある。あまり上演されないオペラももっと取り上げて、映像に残してもらえると嬉しい。

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