Ode to Joy(吉田志門&碇大知デュオ)の「マゲローネ」と「いちばんすきなひとに」に感動
2026年3月1日、東京の広尾にある霞町音楽堂で、Ode to Joy(吉田志門&碇大知デュオ)のコンサートを聴いた。「聴いた」と言うより、実を言うと、私はこのコンサートのオーガナイザーにして共催者だった。かつてこの二人の演奏を聴いて感動し、吉田さんと知り合いになるうち、自分でコンサートをお手伝いして、この人たちの演奏するブラームスの歌曲を聴きたいと思うようになって話を進めるうち、今回のコンサートが実現することになった。
ひとことで言って、自分の聴きたいコンサートを企画し、それを実現することができて、感無量! 素晴らしい演奏だった。
曲⽬は前半に、ブラームスの「それは旋律の如く」「五月の夜」「永遠の愛について」「よろしいかいお嬢さん」「一本の菩提樹が」「わが愛初々しく」、そして、歌曲集「美しきマゲローネのロマンス」より7曲抜粋。
「永遠の愛について」もよかったが、やはり「美しきマゲローネのロマンス」が圧巻だった。吉田は、正確な音程、しなやかで繊細な歌いまわし、そして、情熱的で激しい声で若きブラームスの情熱を歌い上げる。発声もよく、声を完璧にコントロールしている。ピアノもしなやかに、そして激情的に背景を作り上げる。
これまで吉田のシューベルトやシュトラウス、フォレなどの歌曲を聴いてきたが、ブラームスは初めて。トークの中で語っていたが、これまで低音中心のブラームスを歌う機会はなかったとのこと。しかし、この秘めた情熱、静かな爆発、安定した盛り上がりはまさにブラームスにぴったり。少なくとも、若い時代のブラームスの声が聞こえてくるかのようだ。
この歌曲集は、ティークの小説に基づいており、長い朗読が入る。吉田自身の訳によるものを自分で朗読した。それも見事。朗読があるおかげで情景がわかり、歌の意味を捉えることができる。ただ、原作の問題点だと思うが、朗読がちょっと長すぎるのはいかんともしがたい。
だが、ペーターとマゲローネのロマンスがまるでロマン派のオペラのように劇的に展開。本当に素晴らしかった。
後半は、このほど発売になった吉田志門と碇大知の演奏するCDに含まれる木下牧子の歌曲が演奏された。「ほんとにきれい」「 足おと」「竹とんぼ」「ロマンチストの豚」「さびしいカシの木」「海と涙と私と」「犬が自分のしっぽをみてうたう歌」「いっしょに」、そして最後に歌曲集「いちばんすきなひとに」
私はこれほど聴き取りやすい日本歌曲を聴いたことがない! 西洋音楽を学んだ歌手が歌うとどうしても発声が不自然になるが、吉田の日本語はまったく不自然なところがない。詩情にあふれ、言葉の美しさそのものが広がる。木下の歌曲に聞こえてくるやさしさ、繊細さ、深さが言葉から聞こえてくる。
どの曲もいいが、私は「いちばんすきなひとに」に心惹かれる。谷川俊太郎の「わたしはいちばんすきなひとにつたえておくれ わたしはむかしあなたがすきになって いまもすきだと」という言葉と歌に涙したくなる。木下牧子さんが会場に来られて、登壇して短いトークが交わされた。
碇のピアノも詩情豊か。私は日本人であるだけに、日本語から醸し出されることばのニュアンスがとてもよくわかる。ブラームスとはまったく雰囲気の異なる世界。フォーレに近い世界だと思う。吉田の世界の豊かさも痛感したし、同時に、木下牧子の歌曲の奥の深さもあらためて知ることができた。
アンコールはブラームスの「子守歌」と木下牧子の「おんがく」。しみじみとしてとてもよかった。
霞町音楽堂は客席80の贅沢な空間。響きがよく、センスの良い調度品に囲まれ、まるでサロンのような雰囲気。そこに満員の観客。おそらくほとんどすべての人がこの素晴らしい演奏に感動し、贅沢な時間を味わえたと思う。私は最後尾の席で客席全体の満足感を強く感じることができた。
とても感動した。そして、コンサートに来てくださった何人もの知人に感動の言葉をいただいた。忘れられない日になった。
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