国宝十一面観音の旅
2026年3月、大手旅行会社のツアーに参加して、関西の十一面観音を6体、拝観した。
私は、昔から仏教や仏像に関心を抱きながら、ずっとクラシック音楽などの西洋文化の中で暮らしてきた。京都や奈良を訪れた折には、寺院などを見ようとしているが、なかなか仏教、仏像に触れる機会がない。そんな折、友人にこのツアーの存在を知らされて、喜んで参加したのだった。
これまで十一面観音はいくつかみたことがある。観音菩薩なので、如来のようにすでに悟りを開いて仏陀になっているわけではない。いわばまだ修行中の身、だから、人間臭さを残し、煩悩を抑えようと闘っている。しかもそのうえ、観音は中性的であって、しばしば女性的な体型を見せてくれる。そこに様々な表情が宿る。
そのうえ、観音には千手観音、馬頭観音頭など異形のものがあるが、そのなかでも十一面観音は基本的に頭の上に、衆生に目を向けて救おうとする10の小さな顔を持っており、それぞれに表情がある。
実際に出かける前にちょっとした予習をして、十一面観音像にとりわけ信仰を持つ人が多いのもよくわかる気がした。
ただ、何しろ見るためのポイントもわからず、知識もない。今回、6体を見たが、素人の悲しさで、見てすぐから、いくつかがごっちゃになる。そもそも、前に見たものとどこがどう違うのかもよく思い出さない。みているときには、それなりに感動したつもりだが、しばらくたつと、頭の中に像が結ばない。いや、そもそも見ているあいだも、感じたことをどう言葉にしてよいのかもわからない。写真を撮っていれば、それを見て思い出しながら思ったことを再現できるが、撮影禁止なので写真もない。ネット上の写真も少ない。
よって、曖昧なことしか書けないが、備忘録として簡単なメモを記しておく。
向源寺
滋賀県、琵琶湖の湖北にある向源寺(こうげんじ)。渡岸寺観音堂(どうがんじかんのんどう)とも呼ぶらしい。736年に天然痘が流行した際、泰澄(たいちょう)が聖武天皇に除病平癒祈願を命じられて建立し、泰澄が十一面観音像を彫刻したとされている。しかし、ヒノキの一木造(いちぼくづくり)で、作風がもっと後のものであることから、泰澄の作とは考えられないとのこと。田園の中にある。195センチの高さ。
渡岸寺十一面観音は両耳の後ろに大きめの小面があるところに大きな特徴がある。右足を少し前に出して立っている様子であるためか、見る方向によって顔も肢体も雰囲気が変わる。だが、どの方向から見ても、高貴で美しい。
大報恩寺
京都市上京区にある寺院。1221年義空上人によって開創。真言宗智山派の名刹。本堂(国宝)は1227年(安貞1)創建時のままで、京洛最古の古建築。
本堂前に「おかめ塚」がある。おかめは寺院を立てた棟梁の妻で、その助言で寺院はうまく建ったが、夫の名誉を守るために自害。おかめ信仰がここから広まったとのこと。
残念ながら、十一面観音像は展覧会に出品のために見られなかった(この件については前もって旅行会社から連絡があった)。国宝の観音菩薩像をいくつかと快慶作の十大弟子像などがあった。弟子像はすばらしかった。
大雲寺
京都市の民家の中の坂を上がったところにある寺院。335年ぶりの御開帳とのこと。戦火や災害などで何度も寺院は消失。十一面観音像も頭部が焼けるなどしたが、335年前に封印され、秘仏になった。ただ公開を禁じられていたわけではなく、数年前から公開の予定だったところ、コロナなどで時期が遅れたのだという。聖武天皇をモデルにして行基が作ったとされているという。
1メートルくらいの大きさ。保存状態がよかったためか、金箔がかなり残っている。かなり男性的なお顔でいかつい感じがする。
道明寺
藤井寺市にある桜餅に使われる「道明寺粉(道明寺糒)」発祥の寺。菅原道真公が作った国宝十一面観世音菩薩像が御本尊。1メートルくらいの 檀像仏像とのこと。ほかの像ほどのしなやかさは感じないが、落ち着いていて気品にあふれている。かなり男性的な感じがする。本当に道真の作かどうかわからないが、確かにそういわれるだけの知性と品性と信仰心を持った作品だと思った。
聖林寺
昨年だったか、一昨年だったか、足を運んだことがある。JR桜井駅からすこしいった丘の上にある寺院だ。渡り廊下の先にある収蔵館に十一面観音が収められている。これは実に美しい。中性的で気品にあふれ、優雅でもある。
室生寺
この寺も、以前、訪れたことがある。高野山とは違って女性にも開かれた真言道場があったため、女人高野と呼ばれる。寺自体がとても美しい。1998年に台風で損害を受けた五重塔も修復され、今ではかつての風格を取り戻している。
十一面観音像は寶物殿に収められている。これも実に美しい。かなり女性的で慈しみ深い感じ。
法華寺
聖武天皇の妃である光明皇后の建てた寺院であり、境内には日本最古の浴室がある(中には入れなかった)。十一面観音菩薩立像は光明皇后をモデルにしているという。
美しかったという光明皇后をモデルにしているためだろう。女性的で、とても美しくて気高いお顔だと思った。暗くてよく見えないのが残念だったが、唇は赤みが差されている。
観音寺
京田辺市の道路沿いに菜の花畑があり、その中を歩いて観音寺に到着。天武天皇の勅願によって建立されたというが、消失などのために、今ではかつての威容は残っていない。「かんのんじ」ではなく、「かんおんじ」と呼ぶようだ。
こちらの十一面観音もとても美しい。私などには、正直言って、室生寺、法華寺のものとどこがどう違うのか、曖昧になってきた。
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