映画「冬の旅」「蜂の巣の子供たち」「草の乱」「ブレイブハート」「大いなる遺産」
時間のある時、我が家のテレビでBSで放送されたものやDVDやらprimevideoやらで古い映画をみている。気になったものはメモ代わりに簡単な感想を書いている。しばらく映画の感想をブログにアップしていないのを思い出したので、いくつかの映画の感想を載せる。
「冬の旅」 アニェス・ヴァルダ監督 1985年
ヴァルダ監督の映画はみられる限りすべてみているつもりでいた。大好きな監督だ。「幸福」は、パゾリーニ、アントニオーニ、ワイダの諸作品と並んで最も好きな映画の一つだ。が、このシューベルトの歌曲集のようなタイトルの映画(原題はSans toit ni loi、直訳すれば「屋根もなく、法もなく」)については、存在は知っていたが、みられると思っていなかったので、そのままになっていた。ネットであれこれみているうち、primevideoでみられると知った。素晴らしい映画だった!!
冬の南フランスで凍死した18歳のモナ(サンドリーヌ・ボネール)の生前の様子を、かかわった人にインタビューしながら再現していくという形で物語は進んでいく。いわばロードムーヴィー。モナはきれいで魅力的な女性だが、ほぼホームレスのような生活をしている。テントで野宿をし、汚い身なりで、時々仕事を得たり、男性に身を任せたりして暮らしている。モナにかかわって親切にする人、面倒をみようとする人もいる。襲おうとする人もいる。だが、モナは自由を求め、束縛を嫌って自由な生活を続ける。しかし、それはきわめて過酷であって、徐々に生活はすさみ、浮浪者グループと行動を共にするようになり、アルコールやドラッグにふけるようになり、モナは衰弱していく。
人間の最も基本的な姿を描いた映画だと思った。誰もがこのようにして生きている。自由に生きたいと希求し、それを実行すると、様々な障害にあい、手助けしてくれる人はいるものの野垂れ死にするしかない。大きく言えば、これはそんな寓話だと思う。
モナが出会う人物(環境を重視する植物の教授、自由と束縛の中で折り合いをつけて生きている元哲学教師、真面目に働くアラブ系の労働者、田舎町で地道に生きる家政婦、遺産を期待して叔母の死を待つ夫婦など)はまさに現代人の類型! モナを見ながら、おれもこうやっていろんな人たちとかかわって生きてきたなあ・・・という感慨を抱いた。
それにしても映像が美しい。「幸福」のような鮮やかな色彩ではなく、いかにも田舎町の冬の寂しい風景だが、寂れた村も廃屋も老朽化したトラックも詩情にあふれている。ジョアンナ・ブルズドヴィチュの音楽もとてもいい。
「蜂の巣の子供たち」、1948年 清水宏監督
この映画について、実はまったく知らなかった。名画だと称賛する人がいると知らされて、ともあれみてみた。
一見したところ、イタリアの戦後のネオ・レアリスモの映画ととても雰囲気が似ている。ロッセリーニやデ・シーカを思い出す。戦地から多くの兵士が帰国していた戦後すぐの時期、身寄りのない復員兵が、戦争による浮浪児と知り合い行動を共にして、広島、そして、より北へと向かうという、いわば戦後のロードムーヴィー。男は、タバコを吸って犯罪めいたことをしていた子どもたちの生活指導をし、時折出会う女性を手助けする。だが、サイパンから引き上げる途中に両親を亡くした幼い子どもは病で死ぬ。
ご都合主義的なストーリー展開、子どもたちのセリフの棒読みや硬直した動き、複数の人物の構図の不自然さなどを感じないでもないが、戦後の荒廃した都市や田舎での子どもたちの行動をともあれ生き生きと描く。それにしても、映像美に驚く。海辺や島々、山あいの村などの映像の美しさには息を飲む。子どもが死んだ幼児を負ぶって山に登り、幼児の死を知って駆け降りる場面はとりわけ圧巻。
これは戦後日本のリアルを描いたものではない。まさしくこうなってほしいと願う理想を描いたものだ。最後の場面で、浮浪児たちと一般の子どもたちや多くの人が和解しあい歓迎しあう。まさにこれは監督がこの映画に託したこれからの理想の日本に向けてのメッセージだっただろう。
「ヤンヤン 夏の想い出」 エドワード・ヤン監督 2000年
劇場で再上映されているということだったが、DVDを探してみたら、あった。
台湾映画と言えば、ホウ・シャオシェンの作品はかなり観た。このブログにも感想を書いた。エドワード・ヤン監督も台湾を代表する監督らしいが、これまで観たことがなかった。初めて観たが、素晴らしい! ホウ・シャオシェンは小津安二郎のような淡々とした雰囲気があるが、エドワード・ヤンは、少し似た雰囲気がありながらも、もっと強烈。
ヤンヤンという10歳くらいの男の子とその周辺の物語。ヤンヤンの叔父にあたる人の結婚のころから、家族はおかしな方向に動き出す。母方の祖母は脳卒中で寝たきりになり、母は新興宗教にはまって山にこもり、父は冷静で理性的に処理しようとしながらも会社での仕事、初恋の人との再会に心を揺るがし、姉はマンションの隣に住む友達の恋愛のいざこざに巻き込まれることになる。母の兄弟たちもあれこれの混乱に巻き込まれる。
ヤンヤンと意識をなくした祖母という二つの核を作ることによって、大勢の人間の悲喜こもごもがうまく整理して語られる。物語は拡散するようでいて、まとまりがある。そして、その全体を覆うのは、生きることの業というべきものだ。一人一人様々な個性を持ち、様々な事情をもち、誰もが苦悩を抱えながらも懸命に生きている。実際に自分の生を生きている者はそれを俯瞰的に見ることはできないが、こうして映画を見ると、それぞれの生のあり方を俯瞰できる。カメラをもらったヤンヤンが周囲の人の背後を撮るように。
イッセー尾形がヤンヤンの父に人生の一端を教えてくれるビジネス相手として登場する。独特の味を出している。たくさんの見どころのある映画だったが、イッセー尾形の演じる人物が、バーで明るく騒いだ後、一人で静かにベートーヴェンの「月光」を弾く場面に私は最も感動した。
「草の乱」 神山征二郎監督 2004年
1884年に起こった秩父事件にちょっと関心を持って何冊か本を読んだが、たくさんの人物が秩父のいくつもの村であれこれの活動をするので、頭が混乱! とりあえず事件の全体像を知りたいと思ってこの映画の存在を知り、DVDを購入した。本の中に出てきた人物が、なるほどこういう人だったのか!と納得できるような姿かたちで再現されており、おかげで事件の全貌をおおまかに把握できたし、映画を味わうこともできた。
会計長として秩父事件にかかわる井上伝蔵(緒方直人)を中心に手際よく全貌を伝えている。緒方直人のほか、林隆三、杉本哲太らの名優の演技はさすがだ。よくできた映画だと思う。高利貸しと結託して農民を苦しめる政府、それに抗して立ち上がる貧民、見かねてリーダーになる村の実力者たち、いざとなると機能しなくなる自由党などが描かれる。
ただ、困民党の幹部たち、そして反乱に参加する人たちがかなりこぎれいな格好をしており、貧しさが伝わらない。秩父の村の家も、当時であれば藁ぶき、萱吹きがほとんどだと思うのだが、そのような村が映し出されない。大勢のエキストラが反乱に参加する村民として登場するが、切羽詰まって命がけで行動する人たちの必死さが伝わらない。限られた資金で作られたのでやむを得ないとは思うが、もうすこしなんとかならないか。また、武器の調達をどうしたのか、組織化をどのようにしたのか、幹部たちの意見衝突はなかったのかなど、もう少し納得いく説明がないと、リアリティが感じられない。
とはいえ、全体的にはきわめてリアルな映像に出来上がっている。
「ブレイブハート」 1995年 メル・ギブソン監督
「草の乱」を調べているうちに、反乱を描いた映画として「ブレイブハート」が取り上げられている記事を目にしたのでDVDを購入した。実は私は「マッドマックス」のころから、メル・ギブソンはかなり好き(クリント・イーストウッドとメル・ギブソンが私の贔屓の男優だ)で、主演映画や監督作品もそれなりにみているが、この映画はみていなかった。
13世紀、イングランドのエドワード1世の残虐な支配に怒ったスコットランドの人々が、家族や妻をイングランド兵に殺されたウィリアム・ウォレス(メル・ギブソン)をリーダーとして反乱を起こす。そこに、政略結婚でフランスから皇太子に嫁いだイザベル王女(ソフィー・マルソー)がからむ。ウォレスは処刑されるが、それを契機に反乱は高まり、スコットランド民衆は独立を勝ち取る。
エンターテイメント映画なので、どのくらい史実に基づくかわからない。きっとイザベルとの交流にはフィクションが混じるだろう。しかし、実に手際よくイングランドの情勢、スコットランドの貴族たち、ウォレスに同調する庶民の生活や考えを描いて説得力がある。反乱の場面のリアリティはすさまじい。ウォレスの人物像も、もちろんちょっと英雄視しすぎているとは思うが、とても説得力がある。アカデミー賞作品賞、監督賞を獲得したというが、それも当然だと思う。とても良い映画だった。
「大いなる遺産」 1946年 デヴィッド・リーン監督
primevideoを検索しているうち、1946年の「大いなる遺産」を見つけてみてみた。 小学生か中学生のころ、NHKで放送されていた「劇映画」の時間にみた覚えがあった。主人公が古い屋敷のカーテンを開ける場面だけ記憶に残っていた。60年ぶりにみたことになる。ディッケンズの小説は「デヴィッド・カッパーフィールド」だけ読んで、とてもおもしろいと思ったが、何しろ長いので、ほかの作品は読んでいない。「大いなる遺産」も読んでいない。
ピップを演じるのはジョン・ミルズ。私は老年のジョン・ミルズはかなり見たし、彼の娘さんのヘイリー・ミルズは大好きだったのだが、これがジョン・ミルズだとはかなり後まで気づかなかった。子どもの頃のエステラはジーン・シモンズ、ポケットはアレック・ギネス! ただ、それにしてもジョン・ミルズはこの役をやるには老けすぎている!
話の進め方は実にうまい。さすがリーン監督。しかし、現在の視点から見ると、あれこれの人物の心情や様々な行動の動機について私などは疑問だらけになる。映画をみている間はそれほど気にならないが、見終わった後、次々と疑問がわいてきた。だが、言ってみれば、そのように作ってしまうところが監督の技術なのだろうと思う。

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