映画「そして彼女たちは」
ダンデンヌ兄弟が監督した映画「そして彼女たちは」(2025年 ベルギー・フランス合作)をみた。原題はJeunes mères。そのままずばり「若い母親たち」!
母子支援施設で出産、育児のサポートを受ける貧しくて若いシングルマザーたち5人(ジェシカ、ジュリー、アリアンヌ、ペルラ、ナイマ)を描く。5人とも複雑な家庭環境の中で育ち、薬物中毒などに苦しみ、それぞれのパートナーに恵まれているわけでもない。しかも、10代の少女たち(ジュリーはどうやら15歳のようだ)なので、未熟で精神が不安定であって、薬物に手を出したり、母親に甘えようとしたり、懸命に入所者を支えようとするスタッフたちに八つ当たりしたりする。
私はダンデンヌ兄弟の映画を何本かみているし、とても良い映画を作る兄弟監督だと認識しているが、実をいうと、あまり好きな映画監督ではない。常に現実社会の弱者をリアルに描き、時に弱者を食い物にする人間のクズと呼ばれても仕方のないような人物までも克明に扱うので、見ていてイライラする。しかも、私からすると、すでに知っていること、少なくとも想像のつくことを描いて、社会や人間について新しい発見につながるようなものを描いてはくれない。私は社会の見方、人間の見方、世界の見方を根底から変えてくれるようなものが映画に求めているが、ダンデンヌ兄弟の映画にはそれがあるとは思えない。
とはいえ、ここまでリアルに、その弱さ、その欠点も含めて、少女たちの実像を描き、それぞれの苦しみ、悩みを見せられると、私もまた彼女たちの人生を共有し、彼女たちに声援を送り、彼女たちとともに泣いたり怒ったりしたくなってくる。家庭環境から逃れられず、自分が育てられたように子供を育てるような境遇に追いやられてしまい、それを断ち切るためには、どんな人間でも信じられないほどの覚悟が必要となることを実感する。
子どもを産むときになって、自分を捨てた母への思いを強くして、執拗に母を求めるジェシカ、薬物に頼りたくなる気持ちを抑えて、真面目なパートナーに支えられて何とか健気に生きようと努力するジュリー、パートナーに裏切られて姉に頼るしかなくなるペルラ、母の説得を振り切って、自分の子どもを手放すアリアンヌ。どの少女の気持ちも痛いほどわかる。解決しなければならない社会矛盾が山のようにあることに気づかされる。
最後の場面で、ジュリーは、自らも薬物中毒の過去を持ちながらも真面目に立ち直ろうとしているパートナーとともに、かつての恩師を訪ねて、結婚の証人になってくれるように依頼する。老教師は驚きながらも快く引き受け、ジュリーが授業で感動したというアポリネールの詩「告別(L‘adieu)」を暗唱し、それに曲をつけたシャンソンをピアノ伴奏をつけて歌う。そして、その後、赤ん坊に向けて、元気になる曲としてモーツァルトの「トルコ行進曲」を弾く。調律の甘い、しかもあまりうまくないピアノだが、老教師の思いがこもっている。恵まれない人たちが、自分の境遇を断ち切って未来を築いてほしい気持ちを共有したくなる。さすがにこれは泣けてくる!
調べてみたら、マルティヌーがアポリネールのL‘adieuに曲をつけているらしい。最後のクレジットをよく読まなかった(字が小さくて、私のような老人には読むのはかなり難しい!)のだが、あれはマルティヌーの曲だったのだろうか。
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