木村俊光さん訃報 そして、東響&エラス=カサドのブルックナーに感動
バリトン歌手・木村俊光さんが4月17日、81歳で亡くなったことを新聞で知った。
1972年、飯守泰次郎さんが東フィルを指揮しての二期会公演「ワルキューレ」で木村さんの歌うヴォータンを聴いた時の感動を今も忘れない。指揮もヴォータンも、これが本格的なワーグナーなのか!と心の底から衝撃を受けた。それ以前からワーグナー好きだったが、私のワーグナー好きを決定づけたのは、あの時の「ワルキューレ」だった。その後、木村さんの歌は、第九のソロをはじめ、かなり追いかけて聴いた。
その後、演出家の三浦安浩さんとともに2度ほど飲食をご一緒する機会があった。憧れの人にお会いできて天にも昇る心持だった。酒好きのとても気さくな方だった。ヴォータンのような方だとばかり思っていたら、もっとずっと人間的な方だった。ただ、私はあまり酒好きでなく、それほどお付き合いできないのが残念だった。
飯守先生も亡くなり、木村さんも亡くなった。日本に本格的なワーグナーを導き入れてくれた先人たちが亡くなっていく。とても悲しい。合掌。
2026年4月26日、サントリーホールで東京交響楽団の定期演奏会を聴いた。指揮はパブロ・エラス=カサド、曲目は前半にシューベルトの交響曲第7番「未完成」、後半にブルックナーの交響曲第6番。
「未完成」については、2つの楽章ともにゆっくりとしたテンポで、かなり激情的な演奏。旋律的な美しさよりも、内にこもった感情の爆発を描こうとする。ただ、二つの楽章のアプローチがそっくり同じなので、私としては少々退屈した。まあ、この曲自体、そのような傾向があり、きっとそのために未完成に終わったのだろうが、それにしても、もう少し違う雰囲気があってもよいような気がした。
ブルックナーの第6番は素晴らしかった。この指揮者の本領発揮といったところ! スケールが大きく、この複雑な曲が自然に構築されていくのを感じる。私は交響曲第5番と第6番は、聴いているうちにしばしば迷子になっているのを感じるのだが、この指揮者ではまったくそんなことはない。すべての楽器の音が、少しも濁らないまま立体的に重なっていき、強く高揚していく。宗教的な雰囲気はまったく感じないが、振幅が大きく、音そのものが美しく、細かいところまで神経が行き届いているので、ぐいぐいと音楽に引き込まれる。妙にいじくるのではなく、曲そのものの要求に沿い、かなりオーケストラの意思を尊重しながら、指揮によって音楽に形を作っていくといった感じ。
私のようなオールド・ファンが聴き慣れた、クナッパーツブッシュやオットー・クレンペラーやオイゲン・ヨッフムのような重々しい演奏ではない。しかし、最近よく聴くタイプの現代的でインターナショナルな雰囲気のブルックナーでもない。ゲルマン的な深みが感じられる。第2楽章は深いロマンにあふれ、スケルツォはブルックナーらしいちょっとグロテスクな躍動があり、終楽章で大きく広がっていく。私は何度か感動に震えた。
東響の音も見事。パブロ・エラス=カサド、素晴らしい指揮者だと思った。
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