ディドナートのリサイタル 最高の声の表現者!
2026年5月31日、サントリーホールでジョイス・ディドナートのメゾソプラノ・リサイタルを聴いた。初の来日リサイタルだという。ピアノ伴奏はクレイグ・テリー。
ディドナートを最初に知ったのは、メトロポリタン歌劇場ライブビューイングでの進行役としてだったかもしれない。とても知的な話しぶりだと思っていたが、その後、「チェネレントラ」を観て、その歌声に圧倒された。いっぺんでファンになり、CDや映像に触れて、そのたびに感動した。そして、今回、初めて実演を聴いた。期待通りの、いやそれ以上のすばらしさだった!
曲目は前半に、ジョルダーニ「カロ・ミオ・ベン」、パイジエッロ「もはや私の心には感じない」、トレッリ「あなたは知っている」、ハイドンのカンタータ『ナクソス島のアリアンナ』。
まず、声の美しさに圧倒された。何と澄み切った声! しかも、強い声から柔らかくて優しい声まで表現の幅が広い。それを完璧にコントロールして歌う。同じメロディを繰り返すのでも、微妙なニュアンスをもって盛り上げていく。そして、ハイドンの長大なカンタータ(これ、実演だったか映像だったかで一度だけ聴いた記憶がある!)の劇的な高揚にも圧倒された。近年、あまり大きな役をオペラ劇場では歌っていないと聞いたが、どうしてどうしてまったく衰えないどころか、相変わらずの凄さ! とりわけ、強い声の威力に呆然とするほどだ。
ピアノのクレイグ・テリーも、しなやかな音で、しゃれっ気がある。息がぴったり合っている。
後半はオペラ・アリア。ロッシーニ『アルジェのイタリア女』より「ひどい運命よ!」、サン=サーンス『サムソンとデリラ』より「私の心はあなたの声に開く」、ハッセ『アントニオとクレオパトラ』より「恐ろしい顔をした死神は」、ビゼー『カルメン』より「ハバネラ」。
ロッシーニは躍動感にあふれている。『サムソンとデリラ』は前半、あまり色気がないので、この人にはあまり合わない歌なのではないかと思った。考えてみると、私の知る限り、ディドナートはあまり妖艶な役を歌わないのではないか。少し違和感があった。が、これでよかった! 後半になると、まさに清純な声。このアリアは、デリラ(というかフランス語読みではダリラ)がサムソン(フランス語読みでは、サンソン)を色気で誘惑する歌なのだが、確かにダリラはサンソンに本当に心惹かれているという解釈も十分に成り立つ! 清純なダリラが目の前に現れた! 私は大いに感動した!
「カルメン」の「ハバネラ」も、カルメンの妖艶さよりも、その躍動感を表に出した歌だったと思う。それにしても、何と美しくて強い声! 知的に組み立てられている。
アンコールは5曲くらいだった。ただ、残念ながら、いわゆるクラシックの歌は『フィガロの結婚』の「恋とはどんなものかしら」くらい(これも、わざとカマトトぶって、すまして歌って、最高!)で、あとはジャズっぽかったり、ジャズ風アレンジだったりした。クラシック以外の歌についてほとんど完璧に無知と言ってよい私は、聞き覚えはあるものの曲名を知らない曲ばかりだった。ディドナートが英語でコメントしたが、英語の聞き取りの苦手な私には恥ずかしながら何を言っているのかわからなかった。歌については、これらもほんとうにうまい! なじみのない曲だが、私も大いに楽しんだ。ピアノ伴奏もみごと。しゃれていて、気品があって、遊びがあって、とてもいい。
最後は最初に歌われた「カロミオ・ベン」のジャズ風アレンジ版。アンコールの間、観客席は大喝采。最後にはスタンディング・オーベーションになった。
ディドナートは、素晴らしい声の持ち主というだけでなく、声の表現者として最高の存在だと思った。
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