ラ・フォル・ジュルネ2026 3日目
2026年5月5日、ラ・フォル・ジュルネ2026の3日目、3つのコンサートを聴いた。簡単に感想を記す。
・トリオ・オウオンによるシューベルトのピアノ三重奏曲D897「ノットゥルノ」とドヴォルザークのピアノ三重奏曲第4番「ドゥムキー」
トリオ・オウエン、すなわち、オリヴィエ・シャルリエ (ヴァイオリン)、ヤン・ソンウォン (チェロ)、エマニュエル・シュトロッセ (ピアノ)のベテランによる安定した演奏。華やかさはなく、若々しさもないが、独特の味わいがあり、しみじみと音楽の楽しみを感じさせる。「ノットゥルノ」は優しさにあふれており、「ドゥムキー」は、「人生あれこれあるけれど、ともあれ踊って楽しもうよ」といった大人の雰囲気があふれている。おじさんたちがちょっと酔っ払って人生を語っているかのような雰囲気。とてもよかった。
・クララ・シュミット (メゾ・ソプラノ)とアンサンブル・マニェティス (指揮・セバスティアン・ブヴェイロン)による「詩人の恋」「ヴェーゼンドンク歌曲集」より
アンサンブル・マニェティスというのは、第一ヴァイオリンのセバスティアン・ブヴェイロンをリーダーとする弦楽六重奏団ということらしい。いずれも、弦楽六重奏の伴奏による歌曲。初めに、ブヴェイロンによる「詩人の恋」についてのかなり長い解説があってから演奏が始まったが、通訳の方の入る切れ切れの説明だったので、私はよく理解できなかった。
シューマンの「詩人の恋」から、「美しい5月に」「僕のあふれる涙から」「君の瞳を見つめると」「ラインの聖なる流れに」「僕は恨まない」「若者が娘を恋し」「僕は夢の中で泣いた」が歌われたが、弦楽器が情緒たっぷりにあまりに遅いテンポで演奏された。しかも、弦楽器の音程がよくないような気がしたが、気のせいだっただろうか。メゾ・ソプラノのシュミットも、とてもきれいな声なのだが、低音になると音程が怪しくなった。
次に、ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と、「ヴェーゼンドンク歌曲集」から「天使」「温室にて」「夢」。半音階的な曲想にあふれている。音程の良くない音であまりに情緒たっぷりに半音階が演奏されるので、私はなんだか悪酔いしたような気分に襲われた。
・辻彩奈(ヴァイオリン)、横坂源(チェロ)、伊藤恵 (ピアノ)によるシューマンのピアノ三重奏曲第1番とメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番。
私の好みの問題だと思うが、シューマンに関しては私は少々退屈だった。とてもよい演奏で、ロマンティックな香りを出しているのだが、どうも私はシューマンとは相性がよくない。シューマンの好きな人は、これをロマンティック、あるいは夢想的と感じのだろうが、私は「とりとめない」と感じてしまう。第2楽章についてはとても美して魅力的だと思ったが、ほかの楽章はあまり面白くなかった。
メンデルズゾーンはとてもよかった。きびきびしていて、この作曲家らしい均整美のとれた若々しい抒情が聞こえてくる。三つの楽器が見事に絡み合い、音楽の美しさ、人間の心の叫びを聴かせてくれる。
ラ・フォル・ジュルネ2026は、全部で9つの有料コンサートを聴いた。これで、これまで549のコンサートを聴いたことになる。
2005年にラ・フォル・ジュルネが日本で始まったころ、まさに熱狂の演奏が続いた。信じられほど素晴らしい演奏の連続だった。ヨーロッパの大御所や期待の新人が次々と熱にあふれる演奏を聴かせてくれた。
それから21年。円安のせいもあるだろう。外来のオーケストラが来日せず、すべて日本のオーケストラで演奏されている。大御所の独奏者も来日しない。あっと驚く新人もそれほどたくさん来日しているわけではないようだ。私が9つのコンサートしか行かなかったのは、私が年齢のせいで集中力がなくなったということもあるが、もちろん、ぜひ聴きたいと思うコンサートが少なかったせいもある。
そのためだろう。客の数も以前に比べてかなり減っている。今回、空席が目立った。演奏についても、「熱狂の日」と言えるほどに熱狂したコンサートは少なかったのではないか。私自身は、良い演奏にいくつも出会えた。5月4日のフォーレのピアノ四重奏曲には興奮した。だが、考えてみると、かつてはこのような興奮を一日にいくつものコンサートで味わっていたような気がする。
ラ・フォル・ジュルネの創始者であるルネ・マルタン氏はトラブルを起こしてナント市との間でもめているらしい。来年以降、このイベントがどうなるか、継続されるかどうか大いに気になる。イベント関係者は最大限の努力を払っているのだとは思うが、外にいるものとしては少々残念に思ってしまう。
私としては、2005年当時の活気を取り戻してほしいと強く思う。難しいことだらけだとは思うが、何とかならないだろうか。
| 固定リンク
「音楽」カテゴリの記事
- 新国立劇場「イタリアのトルコ人」 演出の工夫に感心!(2026.10.07)
- カルテット・アマービレ&今井信子のブラームスの感動!(2026.10.06)
- 濱田芳通&アントネッロの「マタイ受難曲」 ドラマティックな人間ドラマ・群衆ドラマ!(2026.10.04)
- オペラ映像「ラ・ボエーム」「ナブッコ」「ドン・パスクヮーレ」「ばらの騎士」(2026.09.24)
- サーナ・テクセレの「メサイア」 加耒徹は指揮者としても素晴らしかった!(2026.09.22)

コメント
私は初日の山下さんと千葉響の「田園」と二日目のゲニューシャスと本名さんのブラームスの協奏曲を聴きました。
「田園」は自分が今迄聴いた中でも屈指の名演で、千葉響の弦の素晴らしさに驚くと同時に、山下さんのベートーヴェンの見事さには感嘆させられましたし、こういう弦の隅々まで細やかに神経を巡らした詩的な演奏を、この時代にまだ聴けたことは望外の喜びでした。
ブラームスは質実剛健ないかにもブラームスという指揮と、流れるように歌うまるでシューベルトのようなソロが、ブラームスによるシューベルトへの思いの丈を伝えるような雰囲気を作り出し、これまたなかなかのものでした。
ただ全体的に人が少なくやや静かに感じられたのは自分もでして、ホールの人の入りもどちらも芳しくなく、今後は室内楽やジャズでも、ホールCあたりでで即完売したものはAでもいいのではないかという気がしました。(二階をクローズして、もし売切れたら二階をそれから自由席としてオープンにするとか)
指揮はいい人達が揃っているので、ホールCにすればより満足度が上がるかもしれませんが、とにかくどこか硬直化してるというかマンネリ化してるというか。来年再来年はベートーヴェンとシューベルトのメモリアルイヤーなので、いろいろ再考してほしいものです。
あとチケットの当日売りでいろいろ不満を耳にしましたが、こういうものもしっかり是正しないと、後々さらに響いてくるかもしれません。
投稿: かきのたね | 2026年5月 6日 (水) 23時56分
かきのたね 様
コメント、ありがとうございます。「田園」はそんなに名演だったのですか! 私は、ベートーヴェンの交響曲は好きな順に、9・5・4・8・7・3・6・2・1ですので、聴かずに済ませたのですが、聴けばよかった!
以前のように、テーマは「ベートーヴェン」「モーツァルト」「バッハ」「シューベルト」などとしてほしいと私は強く思っています。「大河」などとすると、何でもありになり、ほとんどがこじつけになり、焦点ボケしてしまいますよね。せめて、「ウィーン」とか「フランス」「ロシア」「後期ロマン派」してほしいと思っています。
「ウィーンの音楽」などとして、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト、そして新ウィーン楽派を加えれば、私としては最高のイベントになると思うのですが。
投稿: 樋口裕一 | 2026年5月 7日 (木) 10時11分
確かにテーマは絞ってほしいです。
「ウィーン楽派」vs「新ウィーン楽派」
もしくは
「ウィーンのバロック音楽から新ウィーン楽派まで」
みたいなものになったら自分も嬉しいです。
投稿: かきのたね | 2026年5月 7日 (木) 19時22分
かきのたね 様
コメント、ありがとうございます。
クラシック音楽にあまり詳しくない人には「ウィーンの音楽」というようなテーマのほうが親しみやすいと思うのですが、隠れテーマとして、おっしゃっているようなものがあるといいですね。いずれにせよ、「大河」というような抽象的なテーマではないほうが、クラシックに親しみのない人にもある人にも、よいような気がします。
投稿: 樋口裕一 | 2026年5月 8日 (金) 09時54分