「シンプル・アクシデント」追記、そして「熊は、いない」「君は行き先を知らない」
先日、「シンプル・アクシデント」についての感想を記した。少し、書き忘れたことがあった。
砂漠の中で主人公はかつて自分を拷問したと思われる男を生き埋めにしようとする。がらんとした砂漠の真ん中に大きく枝分かれした一本の木がある。その場面を見て、なんとなく既視感をおぼえた。あとで、登場人物のやり取りから、それがベケットの舞台「ゴドーを待ちながら」の有名な舞台(Wikipediaによると、1978年のアヴィニョン演劇祭の舞台らしい)だった。登場人物の二人は、かつて恋人同士であったころ、「ゴドーを待ちながら」を見たとのことだった。
いうまでもなく、この戯曲は不条理劇として評判になったもので、1970年代にフランス文学に関心を持った人間は、間違いなくベケットの洗礼を受けているだろう。私は夢中でベケットの戯曲や小説を読んだものだ。
この戯曲は、ゴドーという正体不明の存在を待つ二人の男が、あれこれしゃべるが、結局ゴドーは現れず、ゴドーが何者なのかもわからないという話しだが、ゴドーGodotはGodではないかという解釈がある。いずれにせよ、何か希望のようなものを象徴しているだろう。
「シンプル・アクシデント」は、イラン世界、そして国際世界の和解という幻想を待ちながら人々が右往左往する映画なのだと思う。
そのほか、パナヒ監督の映画をPrimevideoを探して観た。感想を記す。
「熊は、いない」 2023年 ジャファル・パナヒが監督
パナヒ監督自身が主演している。
イラン政府から映画製作を禁じられたパナヒ監督は、国境の村に滞在し、携帯電話やパソコンを通して遠隔で監督をしてトルコでドキュメント風の映画を撮影している。そんなとき、村の恋愛のいざこざの果てに愛し合う村の若い男女が殺害される事件に巻き込まれてしまう。
村人の口を通して語られる村のバカげた因習に多くの人が囚われ、そのために身動き取れなくなり、いがみ合って、自由に行動できなくなっている。実際には熊などいないのに、みんなが熊がいると恐れている因習社会! そのために殺人まで起こっている。
トルコで撮影中の映画でも、主役女性が映画の中に真実そのものを描かれておらず、未来が見えないことに絶望し、トラブルの挙句自殺してしまう。ここでも、ありもしないものに阻まれているということらしい。
実は、トルコで撮影されているという映画の内容、主役女性の怒りなどについて、私はよく理解できなかった。そのため、なんだかよくわからないのだが、それでも、さすがパナヒ監督の作品! 置かれた状況、その中の人々の苦しみが伝わる。
「君は行き先を知らない」 2023年 パナー・パナヒ監督
巨匠ジャファル・パナヒ監督の息子さんであるパナー・パナヒの監督作品。息子さんの作品とは知らず、Primevideoでパナヒを検索したら出てきたので巨匠の作品だと思い込んでみはじめたが、どうもあまりおもしろくない。その時点で調べてみて、息子さんの監督作品だと気づいた。何度も中断しながら、我慢して最後までみた。
レンタカーで小学生くらいの子どもと青年、その両親が国境に向かっている。どうやら青年が密出国するということらしいが、子どもはそれを知らない。だんだんと状況が明らかになっていく・・というロードムービー。だが、道中で起こるいろいろなことが唐突に感じられる。
私がイランの状況を理解していないからかもしれないが、なんだか意味不明。子どもも可愛げがないし、車の中でみんなで何度もポピュラーソングらしい歌を歌う意味もよくわからない。映像は異様に美しいのだが、登場人物に共感もできず、意味も分からずに終わってしまった。
しばしば、シューベルトのピアノソナタ第20番D.595の第2楽章の断片が流れる。イラン映画でクラシックが流れるのは珍しいと思った。孤独な魂を描きたかったのだろう。が、どうもこの映画はそれがうまくいっているようには思えなかった。
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