ワイエス展2026
東京都美術館でワイエス展をみた。
ワイエスは、美術にさほど関心がなく、画集などほとんど持っていない私が、画集を所有している数少ない好きな画家の一人だ。とはいえ、実は恥ずかしながら、実物を見たことがなかった。しばらく前から気になっていたが、時間が取れたので上野まで足を延ばした。
期待通りの素晴らしい絵たちだった。美術に疎い私は、ただ見て「いいなあ」と思うだけでそれ以上に語る言葉を持たないのだが、みればみるほどに心惹かれる。
3つの階に別れて展示されていた。とてもわかりやすいわけ方だと思った。階を上ると明らかに雰囲気が変わる。LB階は、まるでフェルメールのような静謐な世界。人物はほとんど登場せず、建物、石、草木、小動物が描かれる。圧倒的なモノの質感に惹かれる。微細で緻密。この上なくリアルだが、リアルを超えて形而上学的に感じる。人間を拒絶した物質の世界だと思った。
1階にはオルソン・ハウスを描く絵画が展示されていた。今回の展覧会の中心になっている「クリスティーナ・オルソン」があった。ドアの横に座って外を見るクリスティーナが描かれている。髪が風になびいている。ドア、髪の毛、肌、衣服、草木の質感が素晴らしい。そして、何よりも感じるのは、「風」だ。
そう、LB階は人が不在で、風のない世界だった。静謐な「存在」の世界だった。ところが、1階には人物が登場し、外から風が吹いている! ワイエスの静かなモノの世界に外からの風が吹き出したのだと思った。その風がクリスティーナとその弟のアルヴァロだったのだろう。ワイエスの人生についても、私は深く知っているわけではないが、きっと孤独な世界に、オルソン姉弟という心許せる人物が登場したのだろうと思った。
1階の絵は、圧倒的な質感を持ちながらも、そこに人物が登場する。人が描かれていなくても、人の気配がある。外からの光や風がある。実をいうと、私の個人的な好みからすると、LB階の人物不在の絵のほうが好きなのだが、この階の絵も凄いと思った。
2階に上ったとたんに、正直言って、あまり惹かれない絵が続いた。1980年代に描かれたものらしい。ワイエス60歳前後(私よりずっと若い!)。絶頂期は終えたのかもしれない。ただ、その先に1950年代、60年代の「ゼラニウム」「氷塊」「薄氷」の傑作群があった。この氷や表現には息を飲む。光と影と色彩による自然の質感!
今回のワイエス展のテーマは「境界」だという。残念ながら、私にはこれらの絵から「境界」というテーマはまったく読み取れなかった。解説に記載されていた「境界」に関する記述も私にはこじつけや拡大解釈に思えて、説得力を感じなかった。私の鑑賞力不足、知識不足なのかもしれないが、もう少し私にも納得いくように「境界」を感じさせてほしかったと思った。
美術に疎い私の感想なので、まったくの的外れなのかもしれないが、ともあれ私はとても大きなものをワイエスの絵から得た気がしたのだった。
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コメント
樋口様もワイエス展に行かれたのですね。私も行って大いに感動しました。ものの本によると、ワイエスはクリスティーナ姉弟の家の鍵を預かり、自由に出入りできたと書いてありました。それだけ信頼関係を築いたことは凄いなと思いました。そういう信頼関係があったればこそ、あれだけ自然な姉弟の絵が描けたのだなと思いました。
投稿: Eno | 2026年6月22日 (月) 09時45分
Eno 様
コメント、ありがとうございます。
二度のワイエス展についての感想、とても興味深く読ませていただきました。というか、実は、ワイエス展に行きたい気持ちを高めてくれた要因の一つがEno 様のブログでした。そしてまた、私ももう一度ワイエス展に足を運ぼうかと思っています。
本当に素晴らしいと思います。ほかのモデルと、クリスティーナ姉弟はまったく絵から生じる空気が違いますね。
投稿: 樋口裕一 | 2026年6月23日 (火) 08時17分