加耒徹×古海行子の「水車屋の美しい娘」 知的でありながらも鬼気迫る演奏!
2026年7月18日、トッパンホールで、加耒徹×古海行子デュオリサイタル《シューベルト~一瞬の春~》を聴いた。曲目は、前半に古海行子のピアノでシューベルトの「楽興の時」、後半に加耒徹のバリトン、古海の伴奏で「水車屋の美しい娘」。素晴らしい演奏だった。3日連続で感動のコンサートを聴くことができた。
前半については、ピアノ独奏曲をほとんど聴かず、しかもシューベルト好きではない私としては、何も語ることができない。古海のピアノは勢いがあってとてもいいのだが、私の修行が足りないというべきか、シューベルトの室内楽曲やピアノ曲を聴くと「長いなあ」と思ってしまう(古海さん、ごめんなさい)。
「水車屋の美しい娘」は素晴らしかった。加耒の歌は、ほとんどオペラ全曲を聴くほどの起伏を持ち、ドラマを持っていた。時に鬼気迫ると表現すべきほどだった。ピアノも勢いがあってとてもよかった。見事に、時に鋭い和音で激しい想いを伝え、シューベルトの世界を作り出した。
加耒は最初の一音から最後まで正確な音程で完璧にコントロールした声で歌う。声そのものも美しい。余裕のある知的で穏やかな声。そして、ドイツ語の発音も実に美しい。私にはドイツ語は分からないが、きっと発音も正確なのだろう。しかも、知的に音楽を構築し、一つ一つの曲にドラマがあり、歌曲集全体も大きなドラマがある。それが、ドイツを理解してない私にも十分も伝わるように歌う。しかも、声の広がりや響き具合までも完璧で音楽に即している。うーん、すごい! ドイツの最高峰のリート歌手たちにまったく引けを取らないと思う。
序盤の数曲は活気にあふれ、恋心にあふれている。加耒の歌は、第5曲や第7曲での高揚は恋心の高鳴りが感じられる。そして、第14曲「狩人」や15曲「妬みと誇り」では、痛々しくまさに鬼気迫る。そして、第19曲では静かな絶望が支配し、最終曲では平和な川の流れに戻る。まさしく、恋をし、嫉妬し、苦しみ、絶望した若者の心の軌跡をたどることができる。全曲を聴き終えた後、一人の若者の生涯をともに生きた気がした。
アンコールは「楽に寄す」。これも、70分近く歌った後とは思えない美声で、まさに音楽の楽しみを歌う。
このところの日本人声楽家の躍進はすさまじい。実にうれしいことだ。
| 固定リンク
「音楽」カテゴリの記事
- ヴァン・カイック弦楽四重奏団 音楽そのものの醍醐味!(2026.10.09)
- 新国立劇場「イタリアのトルコ人」 演出の工夫に感心!(2026.10.07)
- カルテット・アマービレ&今井信子のブラームスの感動!(2026.10.06)
- 濱田芳通&アントネッロの「マタイ受難曲」 ドラマティックな人間ドラマ・群衆ドラマ!(2026.10.04)
- オペラ映像「ラ・ボエーム」「ナブッコ」「ドン・パスクヮーレ」「ばらの騎士」(2026.09.24)

コメント