映画「急に具合が悪くなる」 ユマニチュードの考え方!
濱口竜介監督の映画「急に具合が悪くなる」をみた。濱口監督の映画は「寝ても覚めても」「ドライブ・マイカー」「悪は存在しない」を見て、いずれもとても良い映画だと思った。今回も話題になっているので気になっていた。3時間を超すので二の足を踏んでいたが、ともあれ時間を見つけてみることにした。
原作は宮野真生子と磯野真穂の往復書簡であって、まったく映画とは異なるという。
パリの老人介護施設のディレクターを務めるマリー(ヴィルジニー・エフィラ)はユマニチュード(認知症などの障害のある人も人間として敬意をもって接するという介護のあり方)の考えに基づいた介護をしようとしているが、現場の実務者たちから反対の声が上がってうまくいかずにいる。そんなとき、障害のある少年・智樹(黒崎煌代)を通して、日本人の役者・清宮(長塚京三)と演出家の森崎真理(岡本多緒)を知る。彼らの演劇がまさにユマニチュードの精神に基づき、それを実践しているように思えたからだった。とりわけ演出家の真理は癌のステージ4であり、急に具合が悪くなったら最期が近いという状況にいる。マリーは真理と意気投合し、真理に施設でイベントを行ってもらってユマニチュードを進める。反対していた人たちも、ユマニチュードを認めていく。だが、最後、真理は、急に具合が悪くなって亡くなる。
全編、ユマニチュードの思想にあふれているといってよいだろう。ただし、これは単に認知症の高齢者に対しても人間らしく接する、というレベルではない。障害者も病人も健康な人と同じように生きていくべきだという考え方だ。それどころか、ホワイトボードに真理が書いてマリーに説明する通り、資本主義は外部を侵食していくことから成り立っている。そのため、少子高齢化が起こり、格差が生じ、様々な弊害が生み出されている。この映画で提唱されるのは、外部と内部をなくし、枠をなくし、すべてをひとまとめにしようというユマニチュードの考え方だ。つまり、ここでは、おそらく国籍も人種も階層もひとまとめにされる。生も死も同じこととみなされる。だから、この施設では健常者と被介護者が同等に行動し、役者・清宮はフランス語と日本語の混じった芝居を演じ、真理は死を生きようとする。
実は私にはこの映画はことのほか親しみやすかった。私には、がんを患っていた妻が急に具合が悪くなって、そのまま緊急入院し、11日後に帰らぬ人になった経験がある。そして、妻の経験を踏まえて、その後、「70過ぎたらサメテガル」(小学館新書)という本を書いたが、それは「すべてサメテガル、つまり、どちらでもいい、どちらでも同じ、という意識で生きるべきだ」というテーマだった。その中に、生も死も同じではないか、という考えに少しだけ触れた。それは今から考えると、ユマニチュードの考えに近いものだった。
ユマニチュードを実現するのは難しい。濱口監督も、この映画で描いたのが一つのユートピアであることは承知していると思う。だが、理念としてのユマニチュードを描いたこと自体、素晴らしいことだと思う。
ストーリーの運びもとても明確でわかりやすい。あっと驚くような美しい場面がたくさんある。それにしても、二人の女優さん(ヴィルジニー・エフィラと岡本多緒)が魅力的だ。二人とも今回初めて知った。カンヌ映画祭で主演女優賞を獲得したという。当然の受賞だと思った。
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 映画「シクロ」「ポトフ」「こころの剣士を」「1944 独ソ・エストニア戦線」(2026.07.20)
- 映画「急に具合が悪くなる」 ユマニチュードの考え方!(2026.07.18)
- デュラスの映画「バクステル、ヴェラ・バクステル」「トラック」「船舶ナイト号」(2026.07.14)
- 映画「夏至」「青いパパイアの香り」「ノルウェイの森」(2026.07.11)
- 映画「冬の旅」「蜂の巣の子供たち」「草の乱」「ブレイブハート」「大いなる遺産」(2026.04.29)
「映画」カテゴリの記事
- 映画「クロワッサンで朝食を」「ノベンバー」「ザ・ライフルマン」(2026.09.20)
- 映画「ちいかわ 人魚の島のひみつ」(2026.09.18)
- アントニオーニの映画「敗者たち」(2026.08.27)
- 映画「白パンと独裁者」(2026.08.25)
- 映画「海辺の一日」 夫の失踪について考えてみた(2026.07.24)

コメント