オペラ映像「ファウスト」「マクベス」「ジュリオ・チェーザレ」
あいかわらず暑いが、少なくとも関東は、ひところほどの酷暑の日々ではない。私の家の周りでも、かつては日本の南部にしか生息していなかったクマゼミのワシワシ…という鳴き声が聞こえる。そんな中、オペラ映像を何本か観たので、簡単に感想を記す。
グノー 「ファウスト」 2018年 マドリード、テアトロ・レアル
私がこのオペラになじんでいないせいかもしれないが、演奏も演出もあまり惹かれなかった。そもそも、つまらなくて途中からきちんと見るのをやめたせいもあるが、演出のアレックス・オリエの意図もよくわからなかった。どうやら、人工生命を作る実験室を舞台にした読み替え演出ということらしいが、私には、なぜ中年女性たちが巨大な乳房で登場し、若めの女性たちがマネキン人形のような姿なのか、男たちがラグビー(?)のユニホームを着ているのかさっぱりわからなかった。
ダン・エッティンガーの指揮についても、私には煮え切れないように聞こえる。エッティンガーはこのオペラを得意にしているようだが、演出のせいか、音の大きなところも私には空疎に聴こえた。
歌手陣は充実している。もっともよかったのは、ヴァランタンのステファヌ・ドゥグーだった。フランス語が美しくて、グノーっぽさがあってとてもいい。マルグリートのマリーナ・レベカも清楚で、愛に狂う女性を見事に美しく歌う。ファウストのピョートル・ベチャワとメフィストフェレスのルカ・ピサローニは声はよく出ており、その点では見事だと思うのだが、あまりフランス語らしく聞えないのが気になった。
グノーはワーグナーと同時代のフランスの作曲家だが、ワーグナーと比べてしまうと、やはり作品そのものの魅力が不足するのを感じざるを得ない。
ヴェルディ 「マクベス」フランス語版 2024年9月26日、10月6日 パルマ、レッジョ劇場
「マクベス」のフランス語版。初めて聴いた。このオペラにそれほど詳しくない私は、どこがどのようにイタリア語版と異なるのかよくわからない。ただ、バレエの場面がかなり長いと思ったが、これはフランス語版の特徴かもしれない。
ロベルト・アバドの指揮によるフィラルモニカ・アルトゥーロ・トスカニーニとヴィア・エミーリャ・ユース・オーケストラの演奏だとのことだが、メリハリの利いたドラマティックな演奏で、歌心にもあふれている。それはそれでとてもよい演奏だと思う。
ただ、2023年のザルツブルク音楽祭のジョルダン指揮による映像で、イタリア・オペラらしい歌の連続を排除したような演奏を聴いて、初めてこのオペラの良さに気づいた私としては、今回のロベルト・アバドの演奏はあまりにイタリア・オペラ的、あまりに伝統的で、「マクベス」の革新性から外れているのではないかと思ってしまう。要するに、ヴェルディはこのような演奏スタイルから脱したくて「マクベス」を作ったのではないのか?という疑問を抱かずにはいられないのだ。とはいえ、ヴェルディについて論じるほどの見識を持たないので、疑問を抱くにとどめておく。
歌手陣は充実している。マクベスのエルネスト・ペッティは張りのある美声で、複雑なこの役をしっかり歌っている。マクベス夫人のリディア・フリードマンは、声の威力が素晴らしい。他を圧する容姿もこの役にふさわしい。バンクォーのミケーレ・ペルトゥージとマクダフのルチアーノ・ガンチはさすがの歌唱で素晴らしい。マルコムのダヴィド・アストルガも張りのある声がとてもいい。フランス語版ということを意識しているのだろう、みんながしっかりしたフランス語を歌っている。フランス語のほうが心の機微を語る雰囲気が出る。
その中で、パルマ・レッジョ劇場合唱団がとてもフランス語とは思えない言葉を発する。字幕をフランス語にして聴いてみたが、字幕をみても、どの部分を歌っているのかわからないような発音がかなりたくさんあった。もしかしたら、日本語のカタカナ読みのような感じで歌っているのでは?と思った。
ピエール・オーディの演出はシンプルで、道具立ても少なく、背景を示しているだけに思えた。ただ、人物の動きは自然で、わかりやすい分ありがたい。
ヘンデル 「ジュリオ・チェーザレ」 2023年1月25日、2月2日 オランダ国立オペラ&バレエ ル・コンセール・ダストレ(オーケストラ)
私はバロック・オペラにはあまり馴染んでいないのだが、これはすごいと思った。出てくる歌手たちがいずれも圧倒的な歌を聴かせてくれる。バロック・オペラに疎い私には未知の名前が並んでいるが、きっと知る人が見れば、これは高名な歌手たちの競演なのだろう。
題名役のカウンターテナー、クリストフ・デュモーにまずびっくり。ひと昔前まで、世界的に名の知れたカウンターテナーでも音程の怪しい人がたくさんいたのに、この上演で歌うカウンターテナーは全員が音程がまったく狂わない。そのなかでも、デュモーは自在に声を操り、英雄的に、そしてしみじみと歌う。クレオパトラのジュリー・フックスも、クレオパトラにふさわしい美貌と強靭でしなやかな声。コルネリアのテレサ・イエルヴォリーノも色気のある演技と歌唱に惹かれる。セストのチェチーリア・モリナーリは復讐に燃える若者を見事に歌う。トロメーオのキャメロン・シャバジ(カウンターテナー)も見事に悪役を歌う。アキッラのフレデリク・ベルフマン、ニレーノのジェイク・イングバー(カウンターテナー)、クーリオのヘオルヒー・デルバス=リチテも文句なし。
エマニュエル・アイムの指揮もきびきびして抑揚に富み、最後まで飽きさせない。カリスト・ビエイトの演出も、登場人物は現代の服装で、しかも簡潔。紀元前のエジプトの物語を現代に蘇らせている。
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