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オペラ映像「ランメルモールのルチア」「マリア・ストゥアルダ」「陪審員裁判」「不祥事の一件」

 今日は8月の末日。また暑さがぶり返すようだが、ともあれ、首都圏はここ数日は比較的涼しい。オペラ映像を数本みたので簡単な感想を記す。

 

ドニゼッティ 「ランメルモールのルチア」 2023年4月 ミラノ、スカラ座

 新発売のブルーレイディスクを5枚まとめて買ったら、そのうちの3枚のヒロイン役を歌うのがリセット・オロペサだった。まさに今が旬の歌手だ。もちろん、その実力のほどはよく知っている。NHK/BSでみた2025年のザルツブルク音楽祭の「マリア・スゥアルダ」は凄まじかった。

 オロペサは、確かに期待通り素晴らしい。伸びやかな美声、演技も見事。ただ、実をいうと、もっとすごい演奏を期待していたが、それほどではなかった。オロペサは、ルチアにしてはとても情緒が安定して知的な雰囲気であって、狂乱の場の歌も、正確に素晴らしい歌を聴かせてくれるが、突き抜けた雰囲気があまり感じられない。ただもちろん、最高レベルのルチアであることは間違いない。

 エドガルドはフアン・ディエゴ・フローレス。以前ほどの爆発力はないが、相変わらずの美声に渋みが出てきて音楽が深まった。エンリーコのボリス・ピンハソヴィチも申し分ない。横暴でありながらも人間味のある人物を最高の声で造形している。

 レオナルド・コルテラッツィ(アルトゥーロ)、ヴァレンティーナ・プルジニコワ(アリーサ)、ジョルジョ・ミッセーリ(ノルマンノ)も文句なし。ただ、ライモンドを歌うミケーレ・ペルトゥージは名の知れた大歌手だが、年齢的な問題だろうか、少し声のかすれるところがあった。

 シャイーの指揮については、繊細にしてドラマティック。素晴らしい。演出はヤニス・コッコス。登場人物は現代の服装だが、違和感はなく、人物の動きなどさすがというしかない。ただ、人物が現代の服装で現れると、台本の弱さが露呈される気がする。昔の話だと思っていると、少々話が不自然でも、ルチアの狂乱がわざとらしくても、殺人事件というとんでもないことが起こっているのに    舞台がのんびりしすぎていても、さほど気にならないが、現代の話だと思って観ていると、どうにも気になる。そのあたりをどうにかしてほしかったなあとは思った。

 

ドニゼッティ 「マリア・ストゥアルダ」 2024年12月20,23日 マドリード王立劇場

 期待して観たのだが、どういうわけか、私はまったく惹かれなかった。

 まず、ホセ・ミゲル・ペレス=シエラの指揮が私にはピリッとしているように聴こえない。ドラマとして盛り上がらない。

  題名役のリセット・オロペサも、高音はとてもいいのだが、全体的にあまり本調子ではないようだ。ザルツブルク音楽祭2025でのこの役の歌唱はあんなにすごかったのに、ここでは声が上ずっているような気がする。エリザベッタのアイグル・アクメチーナも安定しない。レスターのイスマエル・ジョルディは、私の好みの問題かもしれないが、不安定で甘ったるい歌い方がどうにも気になる。

 デイヴィッド・マクヴィカーの演出は、彼らしい豪華で存在感あふれる舞台での説得力ある動きがとてもいいのだが、ザルツブルクでのウルリッヒ・ラッシュの演出のような迫力がない。

 ザルツブルク音楽祭のあまりに凄い上演の記憶が残っているせいなのかもしれないが、私には満足できない映像だった。

 

サリヴァン 喜歌劇「陪審員裁判」2025年5月30日、フェスティヴァル・シアター

 ギルバート台本、サリヴァン作曲のイギリスのオペレッタ。私はオペレッタ好きなので、近年、ギルバート&サリヴァンのオペレッタがソフトでリリースされているのはとてもうれしい。

「陪審員裁判」は、40分あるかないかの短いオペレッタ。結婚を前にして、別の女性に心惹かれて逃げ出した男エドウィンを、結婚予定だった女性アンジェリーナが訴え、すったもんだの末、裁判長が原告女性と結婚することで落ち着く、という他愛のないストーリーだが、やり取りがしゃれていてとてもおもしろい。自分の不実な過去をあっけらかんと楽しく告白する裁判長の歌など、とてもおもしろい。音楽も、オッフェンバックやヨハン・シュトラウスほどの凄みはないが、十分に楽しめる。

 指揮はトビー・ヘシオン、スコティッシュ・オペラ管弦楽団&合唱団。演出はジョン・サヴォーニン。廷吏のエドワード・ジョウル、エドウィンのジェイミー・マクドゥガル、裁判長のリチャード・スアート、原告側弁護人のクロエ・ハリスなども芸達者で、声も出ている。とても楽しめた。

 演出は、ジョン・サヴォーニン。なぜか、テレビ収録が行われているという設定で話が進むが、わかりやすくて楽しい。英国式ユーモアがあふれている。

 

ヘシオン 喜歌劇「不祥事の一件!」 2025年6月6日 エジンバラ、フェスティヴァル・シアター

「陪審員裁判」と同じBDに収録されていた。エジンバラのフェスティヴァルでの上演。「陪審員裁判」がテレビの収録中という設定だったが、「不祥事の一件!」を見て、その理由がやっとわかった。こちらは正真正銘、テレビのインタビューが大事な要素になる。別の演出家(こちらはローラ・アトリッジ)だが、相談の上、連続性を出すために、このような演出にしたのだろう。何人かは歌手も重なっている。こちらも40分程度の作品だ。

 こちらは現代曲で、作曲のトビー・ヘシオンは、「陪審員裁判」と「不祥事の一件!」の両方を指揮している。1997年生まれというから、なんとまだ20代ではないか! 脚本はエマ・ジェンキンス。この人もきっと同年代なのだろう。

 最初の音から、いわゆる現代曲だとすぐにわかるが、これまためっぽう楽しい。

 党首選で党首となり、首相になることを狙っている副首相のロジャーは、軽率な妻ともどもいくつもの不祥事が持ち上がって苦境に立たされ、それを打開するために辣腕弁護士の悪辣な手法の提言を受け入れて乗り切ろうとするが、そのすべてがテレビインタビューのために用意していたマイクを通して、すべて録音されていた…という話。

 ロジャーはトランプ大統領のようないでたちで現れ、どうやら現在の英国政権中枢の人を揶揄するセリフも多いようだ(私には何のことやらわからないが、観客席では大うけしている!)。風刺と皮肉にあふれている。音楽も楽しい。

 ロジャーのロス・カミング、報道官のエドワード・ジョウル、特別顧問の特別顧問のジェイミー・マクドゥガル、ロジャーの妻のクロエ・ハリス、弁護士のキラ・カプランのいずれもが歌も演技も容姿も申し分ない。

 こんな新作オペレッタが次々と生まれると、どんなに楽しいことだろう!

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