中国映画「紅い鞄」「ココシリ」
DVDを購入して中国映画を2本みたので、簡単な感想を記す。
「紅い鞄」 2003年 ハスチョロー監督
「胡同の理髪師」(2006)などの名作を生みだしたモンゴル族出身のハスチョロー監督の作品。この監督については、私は「胡同の理髪師」に大いに感動したあと、それ以前に作られた「草原の女」(2000)をみて、あまりに陳腐な内容にがっかりしたのだった。今回観たのは、2003年の作品。なるほど、私の評価としても、ちょうど中間くらい。
チベット奥地の墨脱(モォトゥオ)が舞台になっている。上海の老人がモォトゥオの山岳部で暮らす子どもたち(どうやら、チベット族とも異なるメンパ族の集落の子どもたちらしい)のために私財を投じて小学校を建て、そこで暮らしているという。上海の記者・ワンは、老人を診察に来た同じ上海出身の女医や地元の学校長や荷物運びの業者ら10人ほどで学校に向かう。ところが、その道のりが想像を絶する険しさ。道なき道を歩くというレベルではない。数日をかけてのまさにヒマラヤ登山! 絶壁、沼地、渓流越えが続く。何人もが危険な目にあい、怪我をする。一人は崖から転落して命を落とす。そうする中、現地の人になじもうとしなかった上海出身のわがままな女医を含めて、ぎくしゃくしていた人々も仲間意識を持ち始める。
次々と起こるトラブル、襲いかかる自然の危機。それによって初めは亀裂が広がるが、徐々に心を合わせていく、というよくあるパターンのお話。しかも、それぞれのトラブルや危機が定型化されているので、あまりリアリティを感じない。
ただ、そうした中で、しばしば語られるのが、教育の大事さだ。上海の老人は教育の大事さを知って学校を建てた。学校長はそれを信じて教育に尽くそうとして学校に向かう。校長の娘も迷っていたが、老人の建てた学校の教師になろうと決意する。タイトルの「赤い鞄」とは、記者が生徒たちに送ろうとしているランドセルのような鞄のことだ。映画の最後になっても、老人は登場せず、学校も映し出されないが、「学校の重要性」がこの映画の隠れテーマとしてある。
ただ、どうなのだろう。チベットの状況をいくらかでも知ってみると、この物語は複雑な問題を孕んでいる。上海の老人が建てた学校なのだから、きっとそこでは中国政府の政策に基づく中国語の教育が行われるのだろう。そして、子どもたちは中国の教養を身に着けて市民になっていくのだろう。それはメンパ族の言葉も、チベットの文化も捨てることにつながるだろう。強権的な中国政府によって中央の教育が強制されているわけではなく、善意の人々がそれを後押ししているという面が間違いなくある。そして、おそらく、それを一つの文明開化として望んでいる現地の人もいるのは間違いない。監督がこの状況をどう考えてこの映画を作っているのか気になった。
「ココシリ」(原題:可可西里)2004年 陸川(ルー・チュアン)監督
チベット高原北部のココシリが舞台だ。ココシリとは「美しい山」「美しい娘」を意味するという。この地域にはチベットカモシカが生息しており、密猟者が絶えない。今回も密猟が行われ、取り締まりの見張り役が殺される。それを知ったマウンテン・パトロールのリーダー、リータイ(デュオ・ブジエ)は、十数名のボランティアの隊員を率いて密猟者を捕らえるために命がけの探索に出る。北京から来た記者ガイ(チャン・レイ)が同行を許されて取材する。
それだけ聞くと、これまで映画で何度か見たような話に思えるし、話の作りは、記者の同行と言い、過酷な状況の連続といい、「紅い鞄」と似ている(「ココシリ」の方が2年前に作られているが)。あるいは、西部劇でも同じような趣向の映画を見たような気がする。だが、この映画は過酷さが尋常ではない。
何しろ、ここは海抜4000メートルを超す地域で、雪が降り、砂嵐が起こる。15日をかけて車で追いかける。「ネタバレ」になるのでくわしくは書かないが、ハッピーエンドではなく、次々と悲惨な事態が生じ、何人もが命を落とし、この上なく悲劇的な結末を迎える。しかも、これは実話に基づいているという。圧倒的に美しい高原を背景に、生と死のあまりに壮絶なドラマが展開する。
一言で言って、チベットの生命の過酷さを実感する。みんなが命懸けで生活している。生と死が隣接している。そして、パトロール隊は、500頭近いチベットカモシカを殺す密猟者たちを絶対に許さないという信念のもと、自分たちの命が危機に陥ることよりも密猟者を追いかけることを優先する。そこで強く感じるのは、生への慈しみ、故郷を守ろうとする思いだ。密猟者の手先となって働いているのは、ほかの生活手段を奪われてやむを得ずに手伝いをしている人たちだ。リーダーはその人たちの命もできるだけ同等に扱おうとする。
ここではチベットの政治状況もこれまでの歴史も語られない。だが、想像を絶する過酷な世界で生きている人たちの生と死の営みがストレートに伝わってくる。これは大変な名作だと思う。

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