池袋演芸場で昇吉師匠の「お初徳兵衛浮名桟橋」にほろり
2023年9月10日、多摩大学で入試にかかわる仕事を終えた後、池袋演芸場に急いで、夜の部をみた。途中からだったのが残念。
桂蝶の治の「勘定板」、立川談幸の「船徳」、山上兄弟の奇術と続いた。いずれもおもしろかったが、私の今日の目当てはトリの春風亭昇吉師匠。昨年の5月、師匠のYOUTUBEに出演させていただいてから、一度は高座を見せていただきたいと思っていた。
枕なしで、最初から、お初と徳兵衛の噺が始まった。実はよく知らない話だったが、聴いていくうちに既視感を覚えた。「あれれ、この話、どこかで読んだことがあるぞ。そっくり同じではないか。しかも、これを読んだのは、ごく最近だった。あれれ、登場人物も何だか、こんなふうだった。いったい、なんだっけ?」
思い出さないまま演芸場を出て、スマホで調べてみて、思い出した。友人に誘われて、近日中に国立劇で文楽「曽根崎心中」を見に行くつもりで軽く予習していた。そうだ、この話、「曽根崎心中」そのままだった! 「曽根崎心中」を題材に初代古今亭志ん生が落語の演目に取り入れたとのこと。
昇吉師匠はまさに本格的にこの人情噺を語った。徳兵衛が造形され、お初の表情までが見えるかのよう。景色も見える。櫓をこいでいる様子も見える。ふだんなら笑いに沸く会場も、しんみりした場面ではシーンと静まり返る。昇吉師匠の語り口に引き込まれた。
この話は「船徳」の続編らしい。昇吉師匠に頼まれて、立川談幸さんは「船徳」を語ったとのことだった。だが、「お初徳兵衛浮名桟橋」では、笑いの要素は少なく、しかも、この噺にはハッピーエンドのヴァージョンがあるようだが、今回語られたのは心中で終わるヴァージョン。二人が再会し、思いを寄せ合うようになり、追い詰められ、心中を選ぶ心の動きが切実に伝わってくる。見事だと思った。
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